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ペンコver



● 意識してるのは自分だけ(じゃない!?)


(部活モノ)
written by 緑豆




ヨハンが剣道部に入ったのは、ひとえに十代がいるからだった。
部活見学の際に竹刀を振っている十代を見て、ヨハンは即決した。
上級生に混じって美しい姿勢で竹刀を振る十代は、誰よりも目を引く存在だった。
急激に惹かれるその感覚は、恋、に近かったと思う。
流れる汗が首を伝ったのを見て、ヨハンは入部を決めた。


そして現在。
無事入部を済ませ、ヨハンは十代と一緒に汗を流している。
十代は相変わらずヨハンの視線を奪って放さない。

「ヨハン?どうかしたのか?」

「あ、いや、なんでもないぜ。」

ヨハンは慌てて目を反らした。こんな会話は日常茶飯事だった。
つい見つめてしまうヨハンの視線に、十代が気づく。
そして、ヨハンはそれを否定する。

何度繰り返しているかもう数え切れないくらいだ。
それでも十代は深く突っ込んでこようとしない。「そっか。」で話が終わる。
そう。終わってしまうのだ。

ヨハンのことは微塵も気にかけていませんと言わんばかりに、十代はヨハンを気にかけない。
同じ部活に入っているというのに、廊下ですれ違っても素っ気無い挨拶が返ってくるだけだし、活動中に目が合うことも稀だ。
嫌われてないとは思うが、無関心なのはどうなのだろう。

道着から覗くうなじを見つめながらヨハンは考える。
部活中の十代は常に真剣で、あまり人と戯れる事をしない。だが、日常の十代は社交的で快活な少年だ。
部活中のストイックさは微塵も感じさせない。話しかけても応えてもらえそうな気安さを十代は持っている。
だというのに、どちらの十代にもヨハンは受入れてもらえていないように感じて、仕方がなかった。
注意深く周りを見てみたが、そういった対応をされているのはヨハンだけだ。

俺って特別…なんて思えるほど、ヨハンは楽観的ではない。
ショックだった。
しかし、それくらいでヘコたれるほど悲観的ではない。

ヨハンは十代との距離を縮める事を止めようとは思わなかった。

 


距離が一向に縮まらないある日。
ヨハンは十代と二人きりになる機会を得た。
偶然に偶然が重なって生まれたチャンスに、ヨハンは有頂天になる。だが、もちろん表面上は平静を装う。十代に引かれては元も子もない。
誰も居ない道場で黙々と竹刀を振るヨハンと十代。
ヨハンはきりのいいところで休憩を挟むが、十代は稽古熱心で一向に休む気配がない。
剣筋が鈍って来たところで声をかければ、十代はようやく手を止めた。

「十代。スポーツドリンク飲むか?」

「ああ。ありがとう。」

正座をして汗を拭いている十代にドリンクを差し出せば、十代は無防備に見上げてくる。
これはマズイ。
十代に対してやましい想いを抱いている身には、恐ろしいくらいクリーンヒットだ。
ヨハンは慌てて十代の顔から視線を下にずらした
これで大丈夫。そう思ったのだが、道着の合わせ目から見えた胸元には、なんとも妖しげな赤い跡がある。

「十代…その、傷は?」

「?え?」

十代は意味が分かりませんと言わんばかりに見てくるが、ヨハンは嫌な予感がしてたまらなかった。

「胸のところのやつ。」

ヨハンが指摘をすれば、十代は慌てて胸元を閉じた。
そして、顔を真っ赤にして言い訳を始める。

「これは、その、防具の整理をしていたら落ちてきて。」

「防具が?怪我は?それだけ?大丈夫なのか?ちゃんと手当てしなきゃダメだろ?」

「ちょっと掠っただけだから、よは…っ、やめっ。」

心配5割、嫉妬心5割でヨハンは十代の道着の襟を掴むと大きく広げた。
鬱血…の跡に見えなくもない。だが、そっと指で触れてみたらザラつきを感じる。
どうやら擦り傷らしい。しかも、ついてからそんなに時間は経っていないようだ。真っ赤なそれを見て、ヨハンは思う。

消毒しなければ。
思ったのと行動は同時だった。
ヨハンは十代の胸に口を寄せると、そっと舌で傷口を舐める。汗でしょっぱい。
健康的に汗をかいた十代からは、体臭が色濃く漂ってくる。ヨハンはそれに嫌悪感を抱くどころか、興奮を覚えた。
夢中になって舐めていたヨハンを止めたのは十代だった。
止められた瞬間やばいと思ったが、やってしまったことは取り返しがつかない。
断罪覚悟で十代を見れば、十代の目には予想に反して負の感情はなかった。どちらかといえば、なんというか、恥ずかしがっているような…。
そこまで考えたところで、ヨハンの目の前にお星様が飛んだ。
頭がくらくらする。頬が非常に痛い。
何事か認識する前に、お星様越しにヨハンの目に入ったのは、乙女が恥らっているかのように真っ赤な十代だった。
吸い寄せられるように触れれば、十代の全身は真っ赤になる。

「うまそう…。」

ヨハンは思わず本音を漏らした。
十代はそんなヨハンを凝視した後、ヨハンに拳をくれてから走り去った。
「心の準備が…」だの「順番が…」だの言っているのが、床とお友達になったヨハンの耳に聞こえる。

「脈…あるのかも。」

十代の暴力で起き上がれないまま、ヨハンはほくそ笑んだ。

 

 

END


 




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