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● 意識してるのは自分だけ(じゃない!?)

(高校生パロ:痴漢ネタ)
written by ペンコ




・(十代サイド)


最近困っていることがある。
たいした対策がないってのも原因だが、
一番困ってるのは自分がその状況を受け入れ始めているということだ。


電車で隣の市まで通学している俺は毎朝決まってラッシュに巻き込まれる。
車内は胸が押しつぶされそうなくらいのすし詰め状態。
体の向きを動かすことできなければ腕の一本すら動かせなくて、
みな互いの迷惑にならないよう眠気と闘いながら、数分間ひたすら電車の揺れに耐える試練の空間だ。

俺が降りる駅はひとつ前の区間と大分開いていて、それこそ10分以上かかる最後にして最難関。
だが今では別の意味で最難関になりつつあった。

いつもこの長めの小康状態に、いわゆる、その、チカンにあうのだ。
最初は気にもしてなかった。
満員電車では常に誰かと接触してしまうのはしかたがないことだし、第一俺は男だし。
邪魔にならないようカバンを前で抱きしめいつも同じ車両に乗り込むと、
決まって最後の10分間でその腕は人の隙間を縫って俺の尻にやってくる。

おかしいと思い始めたのは、手の平が俺の尻を包むように触れていることに気付いたからだ。
まさかと思いつつ、気味が悪いので何とか体を回転させようと体を動かすが、
左右に振られた俺の尻の動きに合わせるように、さらに割れ目まで手が伸びる。
割線に沿ってその右手(?)の中指がズボンの股底を上げ、指先はまるで何かを探すように本当に微弱で細かに動いた。

体が動かせない日などは観念してされるがままになっている…
でも車両を変えるまではいかなくても入る扉を変えたり、人垣の薄い座席の方へも行ったりしてみるが
何日か経つと必ずまたその手は俺を探し当ててくる。

今は女性専用車両ができて女性は少ないけど、それでもいないわけじゃない。
最初は痴女…もといキレーなオネーさんだといいななんて平和な想像をしてたモンだけど
何回かイタされてる間女の人が全然周りにいない時も数回あり、俺は男…つまり同性に狙われているのだと冷や汗を垂らしたのであった。

相手はオッサンなのか若いサラリーマンなのかそれとも別の誰かなのか。
唯一動く首を動かせど、みんな表情一つ変えないし目ぼしい人物も特定できない。
せめて腕が動かせれば……日ごとにエスカレートするその手を掴み大声で罵声を浴びせてやるのに。

でももし同級生がたまたま乗車していて痴漢にあっていることがバレたらどうしようとか
好機の目にさらされてほぼ毎日使う電車に乗りづらくなったらどうしようとか色々思うところはある。

毎日朝が来るのが憂鬱だったがいつも遅刻ギリギリな俺は結局いつもの電車に乗っていたし、
降りた時一番改札に近いその車両に乗るハメになっていた。

それに…こんなことは誰にも言えないけど、
その痴漢ヤローは慣れてるのかたまにとんでもない秘所を探り当ててくるのだ。
体の主である、俺でさえ知らないような。

電流が流れるみたいに体が飛び上がってしまいそうになって、
声はなんとか押さえるが、たまに車内ですっとんきょうな声を上げてジロジロ見られてしまうことすらあった。

その手は俺を味わうみたいにゆっくり動いて、周りに悟られないように俺の尻の穴をくすぐり、
脚は閉じているはずなのに門渡りに沿って器用に指を動かす。
最初はムズムズしているだけだったが、今ではそれは抗えない快感にかわりつつあった。

現に証明している。俺の下半身が…………

 

今日も嫌なんだかイイんだかよくわからない10分間を乗り越え、
一人赤ら顔の俺はその手から逃れてホームへ降りる。

うう…前かがみな自分が情けない…っ

足早に人々が改札を目指す中、俺はトイレへ向かおうとしていた。

「おっす!おはよう、十代!」
「い!?」

不意に後ろからバシンと背中を叩かれ、俺は過剰に驚いてドキドキと心臓が高鳴った。

声の主は同級生のヨハン。
同じ学年でクラスは違うけど友達だ。友達の友達とかだったかな。よく覚えてねーや。
ヨハンは外国人だけど幼い頃から日本に住んでるから日本語はベラベラ。
たまに母国語忘れちまったなんて冗談を言うくらい日本になじんでて、俺たちはすぐ意気投合した。

「……ん?どーした?腹でも痛いのか?」

ヨハンが前かがみな俺をいぶかしむ。

やば…

カバンで前を隠しながら(なんて情けない姿なんだ)俺は深くつっこまれないうちに立ち去ろうと画策した。

「ちょ、ちょっと腹が痛くてよーっ、ヨハンは先に行っててくれよなっ」
「おお。そうなのか。大丈夫か?もうすぐチャイムなるから早く来いよ」

ヨハンは呆気にとられたような様子だったが、必死な俺を察してくれたのか先に行ってくれた。

俺は泣きたい気持ちになりながらもトイレの個室に駆け込み、
すっかり勃ち上がってしまったソレを手早く擦り挙げる。

くそーっ、俺をこんなにしやがって…あの痴漢ヤロー!
でも、くやしいけどうまいんだよなぁ……

嗚呼、せめてキレイなオネーさんだったら…
一刻も早く射精するために、俺はグラビアアイドルだとか友達に借りたエロ本のAV女優だとかを頭の中で検索した。

事務的な作業だけど悲しいかな男なので出るモンは出る。
さっきまで下半身にまとわりついていた指の動きを思い出しながら、
自分好みのお姉さんに悪戯されているんだと変換し、俺は駅のトイレで若い猛りを沈めたのだった。

想像のオネーさんはどことなくヨハンに似ていたが、きっと最後にヨハンを見たからだ。
だってヨハンって男だけど、西洋人の血のせいかおっそろしーほどキレイな顔してんだぜ!

しかし、毎朝こうでは遅刻するばっかりだし、
昂ぶってはじらされて、周りに人がいるのに身を焦がす…そんな毎日は限界だった。

それこそどうにかなってしまいそうで…
だんだんその先を求めてしまう自分が怖くて…


もうこうなったらつきとめて止めてもらうしかない!

カバンを片手で持って、学ランに腕を通さずに中に片手を忍ばせて、後ろをガードする!
そして手がやってきたら掴む!

前から考えてた作戦だ。
やってみる価値はある。

相手もびびってもうちょっかい出してこないかもしんねーし。
よし、明日決行だ。

 

 


・(ヨハンサイド)




 

出会ってすぐ、恋に落ちた。


目が離せなくなり、心臓の音がうるさいと思ったら止まらなくなって、その晩なかなか寝付けなかったほどだ。

この俺が?
男に?


そんな馬鹿な。

学年で一番モテて彼女も途切れたことのない俺が!
男でしかも高校生にもなってまだカードゲームしてるようなガキっぽい奴に?

……かという自分も実は中学まではやってて、その時作ったデッキはまだ崩さないでおいてあるのだけど。

高校受験で周りがどんどんカードやテレビゲームを卒業して行く中、自分もいつの間にか止めていた。
なぜならカードもゲームも一緒にやる相手がいなくてはおもしろくないのだ。
受験が終わったらみんな異性に興味が出てきてオシャレやら身だしなみに関心が行くようになって、
流されるように自分も周りに合わせて買い物したり、美容院でカットしてもらったり、
何組の誰がかわいいだとか誰と誰がつきあってるとか、誰は口説けばやらせてくれるだとかそんなことばっかりが話題だった。

でも十代はそんなことには流されなくて。
好きだと思ったことをずっと貫いてた。
対戦相手がいなければ相手を求めてどこへでも行く。

キラキラした目で好きなことを語る十代は俺にはまぶしかった。

頭では馬鹿にしてもなぜか言葉にはできなくて、俺はもうずっと長い間してなかったカードゲームの話をした。
今つるんでいる奴らとはしたこともなかった話題だ。

めちゃくちゃ楽しかった。
時間を忘れて夢中で喋った。

頬を染めて興奮気味に話す十代は学年のどの女子よりも愛らしく、
俺は生まれて初めて恋に「落ちる」という体験をした。

しかし自覚してしまうと距離をとるのが難しく、
同性に心惹かれる自分もまだうまく受け入れることができず、
純粋な十代の瞳はまるで聖域のような不可侵領域に思え、
不本意ながらも今は知り合い以上友達未満の地位に甘んじている。

日ごとに募る想いは焦りと切なさに変わり、俺は追い詰められていた。
こんなにも人を好きになったのは初めてで。

そんなある日だ。
俺は十代と使ってる電車が同じだということに気がついた。
たまたま1本遅らせた時に、あのチョコレートみたいな髪の頭を人ごみの向こうに見つけた。

高鳴る気持ちと共に、一つの考えが浮かぶ。
まるで悪魔の囁きのような、自分自身のもう一つの声。

『気付かれないのならば……十代に触れられる。
大丈夫、盗むようにやればバレやしない』

君に触れたい。
その肉の硬さ、柔らかさを確かめたい。

でも断じて俺はホモじゃねぇー!!!

でも一度抱いた欲望を抑えるには俺はまだ子供すぎた。
好奇心と戸惑い、罪悪感、背徳感。たった一つの恋心。

色んな感情を乗せて俺の手は十代を求めて闇に潜った。

よし、十代はまるで気付いていない。

布越しに感じる十代の体温。
それだけで嬉しかった。
ああ、やっぱりこれは恋に違いない。

バレるのが怖かったので犯行に及ぶのは適度に日にちを開けていた。
そのうちに十代はキョロキョロと周りを見渡すことがあり、そして定位置から移動を始めたのだ。

ついに十代が俺の手を認識した。
しまったと思うどころか俺は意識されたことが嬉しかったのだ。
俺ってちょっと変態の気があるかもしれない。

いけないと思いつつもついエスカレートして、十代が動けないのをいいことに俺は触りまくった。
最初は女にするみたいにしていたけど、やっぱり男だもんな、感じるところも違う。
男同士のセックスもバッチリ研究した俺はどこがいいのか模索していた。

俺は尻の穴で感じたことはねーし、十代の反応を微妙な振動や筋肉の収縮を見て探り当てるしかない。

やがて熱心でしつこい俺の実験の成果が出始め、
十代は身をよじらせたり、その蕾をひくひくと動かし始めた。

うれしい。
十代はきっと感じてる。

そんな十代の反応で俺もうっかりエレクトしそうになることもしばしば。

この前なんか十代が突然声を出すからびっくりしちまったぜ。
その声を思い出しながら家で抜いたけどな。

電車を降り駅のトイレに駆け込む十代の後をつけて隣の個室に入り、
なにやらいやらしい物音を立てる十代と一緒に果てたこともあった。

小刻みに揺れるベルトのバックルの音や、かすかに聞こえる十代の吐息は俺に最高の興奮をもたらした。

そしてどうしてもそれだけでは物足りなくなってくる。
触れて、たくさん愛撫して、もっと気持ちよくさせたい。

もしさせてくれるなら…キスをしたい。
大きな瞳に俺を映しながらまぶたを閉じて、薄桃色の唇に触れさせて。


その頃になればもう十代に触れることは日常的になっていた。
毎日、毎日片手に全神経を集中して十代を感じる。

コレじゃダメだ。
俺は十代と恋愛がしたいんだ。

止めなければと思いつつも、
朝会うくらいしか接点がない上に、何も知らない十代に悪戯している後ろめたさが俺の後ろ髪を引いていた。


そんなある日だった。
いつものように手を滑り込ませた俺は、十代の尻に辿りついたかというところで今までにない手触りを感じたのだ。

目測を誤った……?
そう思いつつ手を移動させようと思ったら急に手首を掴まれた。
びっくりして俺は手を引っ込めようとするも、掴んだ手は簡単には離してくれない。

しまった。第三者にバレたか…?

もし見つかった時のためにに用意している言い訳が頭の中を忙しく回転するも、
この状態では逃げることは無理だろうと一端手の力を抜いた。

電車が止まれば、駅員に突き出されるか…?
十代にバレたら何もかも終わりだ。

駅に着くまでの数分、俺はありとあらゆることを想像した。
ドアが開いた瞬間逃げるとか、なんとかもう片方の手を使って掴んでる腕を解こうかとか…

するとどうだろう。

緩んだ俺の手を掴んでいた手が俺の指にその指を絡め始めたのだ。
まるで恋人同士が手をつなぐみたいに。
少し力を入れてぎゅっとしたり、かと思えば俺の指を確認するように撫ぜる。

相手の指はそんなにゴツくない。
大人になる前の、ほっそりとした俺と同い年くらいの指だ。

手の平は柔らかくて…

そこまで考えて俺はこの今まさに繋いでいる手が十代のではないかと思い至った。
確証はない。
けどそんな気がする。

相手の反応に、俺も返事をするように優しく握りかえした。

 


やがて電車はいつもの駅へ停車し、ドアが開く――――――――――。




案外意識してるのは自分だけじゃない、かも。







 


END

 

 

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