・光の庭

 

 

 


風が吹き池の水面にいくつかの細かい波紋ができる。
二人だけの中庭にアテムの笑い声が響いていた。

いつものようにユウギに気を使って初めは口に手をあて堪えようとしたのだが、結局噴出してしまい徒労に終わった。

「もー、いつまで笑ってるのさ。ボク、とっても傷ついていんのに」
「………ククク、すまない……お前にキスを迫られた時のセトの顔を想像するとな………」

不貞腐れながらもユウギは盤上の駒を動かした。

「だから男同士はしないって言っただろう。普通は」
「だってそのオトコドウシってのがわかんないんだもん……」
「……ふむ」

会話しながらもアテムの攻めには容赦がない。アテムの打った手にユウギは眉間に皺を寄せた。

「ユウギ………まさかとは思うが…性別はわかるか?」
「セイベツ……??」
「男と女のことだ」
「……………」

ううん、とユウギは頭を捻ってその単語が自分の頭の中にあるか探ってみる。

「…………わかんない」
「………そうか、セトの宮は女人禁制だからな…」

それにしても、世の中の基本的なことを知らないというのは笑い事ではない。
セトがユウギに甘いことは薄々感じていたものの、甘やかすのと教育をしないのは別の話だ。

「ユウギは文字を覚える前にもっと知らなくてはいけないことがたくさんあるな」
「また…教えてくれるの?この前みたいに……」

この前の、というのはキスのことだ。
いつものように再会したもののユウギはどのタイミングでキスをしていいのか、はたまたどのくらいの頻度でするものなのかわからず焦れていた。
セトのように拒否されるのは悲しいし、アテムに笑われるのも面白くない。

「………なんだ?キスしたいのか?」

頬を赤くし、モジモジと膝を擦りあわせるユウギの様子に気付いたアテムは余裕たっぷりに笑った。

「う、うん………なんかね…この前から変なんだ…キスって考えただけで胸がドキドキして、体が熱くなって…ボク病気なのかな」
「いや……それも好きだって証拠なんだぜ」
「そ、そうなんだ……じゃあ、アテムもこんな風に…?」
「確かめてみるか?」

アテムは駒を握っていたユウギの手を強引に取り、自分の左胸に押し付けた。

「あっ…駒が」

ユウギの手からこぼれた駒が転がり、すぐそばの池に落ちる。
木製の駒はぷかぷかと浮いて、どんどんと池の真ん中へ進んで行くがアテムはユウギを離さなかった。

「ほら……どうだ。ユウギのその澄んだ瞳に俺が映ると…この胸は早鐘のように高鳴る」
「アテム………うん……わかるよ…君もボクみたいに……」

手の平から伝わる鼓動に、ユウギは目を閉じた。

「この音……すごく心地いい……君の肌………布の上からなのに……すごく熱い」
「ユウギ……」

二人はより近づこうと膝を立てるが、その拍子に盤が動き、駒が全て倒れてしまった。

「む…………」
「やっちゃった………でもボク一手目から覚えてるよ」

ユウギはそう言って駒を並べ始める。
盛り上がったところをくじかれてアテムは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、ユウギの記憶力の良さに関心していた。

「ここで…この後これで……あれ」

駒が足りなくてユウギはキョロキョロと見回す。
そういえばさっき落としたんだと池を見やると、水面に浮かぶ大きな蓮の葉と葉の間にひっかかっていた。

「ああ、いけない。届くかな……」

ユウギは池の淵から精一杯腕を伸ばす。あと少しで届きそうだった。
中指の先が駒を掠る。

「うー…ん、も、もうちょっと」
「おい、ユウギあんまり乗り出すと池に落ちるぞ」
「あ、そうだ、こうやって片手を葉に掛ければ…」

蓮の葉は年季の入った大きなものであれば茎はかなり頑丈になっていて、ある程度重いものにも耐えることができる。
その強度は赤ん坊くらいなら乗せても沈まないほどだ。
ユウギは葉の中心にまっすぐ体重をかけ慎重に体を伸ばした。

池なので流れはないが、葉を揺らしたせいで波紋が影響され駒がさらに遠のき、ユウギは焦って前のめりになってしまった。
その瞬間、丸く大きな葉から手が滑り、ユウギの世界がぐらりと揺らぐ。

「わ…………!?」
「ユウギ…!!」

盛大な水音がし、ユウギは頭から池に落ちた。
言わんこっちゃないとアテムは肩でため息をついたが、冷静に自分のマントをはずし、すぐに池に入った。
観賞用の池でも、それでも王宮の一部だ。水の循環をよくするため、深さも結構ある。

「……わわっ………ど、どうしよっ」

なんとか水面に出れども混乱したユウギはがむしゃらに手足を動かし、沈むまいと大量の水の中を必死にもがいた。

「あまり動くな。蓮のトゲで怪我をするぞ」

アテムは難なくユウギの傍までたどり着くと抱えるように腰に手を回し、急に安定したユウギは目をぱちくりとさせた。

「アテム……お、泳げるの?」
「必要不可欠だからな。水練は基本だ。」

国土は砂に覆われているが、命の源となる広大で肥沃なナイル川を有している。
船での移動もあるし海や川が戦場になることもある以上、国主となる者には当然求められる技術だった。

「足を前後に動かしてみろ。ゆっくり………そう。上手だ」
「こ、こう………?あ、なんとなくわかってきた」

アテムに支えてもらいながらタイミングを合わせて水を下に向って蹴ると、なんとか沈まなくて澄む程度に維持できるようになった。

「水の中って、こんな感じなんだ……沐浴とはまた違うね」
「まぁ水は貴重だからな。滅多に入る機会はないだろう」
「あ、でもね、一度だけ……セト様にお風呂に入れてもらったことあるよ。最初に」
「……ほう」

セトほどの高官になれば宮に湯殿を持っていてもおかしくはないが、自分以外の者と入るなど下手をすれば家族間でもないだろう。
セトには近親者はいないと聞いているし、やはりユウギには特別な情があるのだろうとアテムは推察した。

「また入りたいなぁ、お風呂」
ユウギはその時のことを思い出しているのかとろんとした瞳で空を見つめていた。

「風呂か……」

もちろん自分の宮にある風呂に連れて行くことはできる。ユウギが喜ぶのならそうしてやりたい。
しかし今は戴冠式前で宮中は準備に追われていて、自分の我侭で下女たちの手を煩わすのも気が引けるし、
それが新しいファラオになる者として正しい振る舞いなのかと迷わないわけではない。
では誰にもバレないように連れていくか…?
身分の違うユウギを宮に連れていったりすればそれなりにリスクもある。
第一、セトの耳に入ってしまえばユウギが傷つくだろうし、それは避けたいところだった。

「………………」

アテムが思案に暮れている様子を、ユウギはじっと見つめていた。
眉根を寄せて難しい顔をしているので、声がかけづらい。
しかし、さっきから密着している肌から伝わる体温や、アテムの吐息が首筋を掠る度にユウギは衝動を押さえきれないでいた。

(この前のみたいにまた………くっつきたいなぁ…)

抱きしめ合うよりもずっとずっと相手を感じられる、キスという行為。

「…………、ユウギ?」

自分に向けられる大きな瞳の存在に気付いたアテムは、どうしたと声を出す前に小さな唇によって制止された。

「…!」

ユウギの思わぬ行動に驚いたものの、アテムはすかさず反応し腕の力を強めると、さらに深く、角度を変えてはそれに応えた。

「んっ、ふぁ…、ん、ん…っ」

堅く目を閉じ、ユウギはアテムの舌を夢中で味わった。
たまに搗ち合う歯がもどかしく、水の浮力のせいで思うようにアテムに合わせることができず、焦れる。
それでも、全身がアテムを求めて止まない。

 

静かになった中庭には小鳥の囀りが遠く、
徐々に落ち着きを取り戻した水面は二人を中心に幾重にも波紋を作って広がり、やがてまた音もなく溶けていく。

空に太陽は白く輝き、闇など入り込む隙間のない―― 光の庭。


赤い糸はくるくると絡み合い、互いをより引き寄せる。

離れないように、
離れてもまた、糸を辿れば会えるように…

 

 


「あ、いや、アテム。やめないで……」

水中でもどかしい思いをしていたのはユウギだけではない。
アテムは唇を離すと無言のまま、ユウギの肩を抱いて池の淵を目指した。

「……君が好き………君のこと考えると、自分のことがわかんなくなっちゃうくらい……それで、それでね…」

ユウギはすでに全身にろくに力が入らず、ゆらゆらと揺れながらもずっとアテムへの気持ちをなんとか伝えようとしていた。

キスと言葉。
ユウギはまだそれしか気持ちを表現する手段を知らない。


やがて石畳まで泳ぎ着くとアテムは早々と上がり、すぐにユウギも引き上げる。
布が大量に水を含み少し体が重かったが、アテムはユウギが息つく暇もないまま押し倒した。

「あ、アテム……っ」

たった少しの間でも離れていたのを惜しむように再びキスが降り注ぐ。
アテムの体重を感じながらユウギは一身にそれを受け止めた。

ちゅ、ちゅ、っと唇を鳴らしながら、アテムはユウギの腰紐に手を掛け、結び目を解いた。
ずぶ濡れのまま宮に帰すわけにもいかないし、乾燥した空気はすぐに服を乾かすだろう。

「服、脱ぐの?」
「ああ、しばらく裸でも平気だろう?嫌か?」
「ううん。平気」

男同士で気を使う必要もないとアテムがユウギのたった一枚の布切れを取り払った時だ。


「な……………………………」


目に飛び込んできた情報は、聡明なアテムの思考がはたと止まってしまうくらい彼の価値観を覆すものだった。

確かに脱がせたのは服を乾かすという大義名分があったが、さらに深いスキンシップを目論んでいなかったと言えば嘘になる。
セトがユウギにその手のことを教えているとも思えないし、
あくまで同性として、ユウギの反応を見ながら射精までの過程を楽しもうとしていたのだ。

しかしあらわになったユウギの下半身にはそれを実行するための象徴が…――なかった。
足の付け根の三角地帯は陰毛すら生えておらず、実にシンプルな傾斜だった。

やがて停止した彼の思考がのろのろと動き出し、一つの答えを導き出す。
ユウギは性別の概念どころではなく、自分の性すら知らない…。

白い胸は若干のふくらみが見えるものの女だと認識するには至らず、明らかな発育不良だろう。
アテムは確認するようにユウギの胸を両手でそっとなぜた。
あまりにも凹凸がなさすぎる。
男だと思わないほうが無理な話だ。

しかし実際に事実を目の当たりにした今、アテムはそれを受け入れるしかなかった。

「…………アテム?」

ユウギはキスの続きを今か今かと待ちわびているのに、自分の下半身を凝視するアテムを不思議に思い、首をかしげた。

やがてアテムはおもむろに視線の先の割れ目の……割線の始点の肉の間に、人差し指を埋めてみた。
中は潤んでいて、肌よりも温かい。

「???……何?」

ユウギは特に恥らう様子もない。
そこに触れられることがどういうことかすらわかっていないのだ。

それならば、とアテムは指の関節を折って暗幕の中を探り、隠されていた小さな突起を掻くように弾いた。

「………!?わぁっ……!あ、アテム…くすぐったいよ。何するの」

ユウギは驚いて抗議の声を上げる。

女性器ならばあって当然なものだが、アテムは直に触れてやっと実感した。
本当に、本当に女なのだ。

「ユウギ………!」

アテムはユウギへの愛しさが湧き上がり、その感情は下半身に直接集まった。
大人びているとはいえ、まだ若い。
知識はあってもまだ実践したことのなかったアテムは、衝動と好奇心を抑えることなどできなかった。
腰布を押し上げる屹立はピンク色に花開くその奥へ入りたいと震え、血液を巡らせる。

たまらずアテムはユウギへ口付け、平らな胸の中心にある薄桃色の突起をつまんだ。

「あ……アテム……ぅ……んっ……い、いた…」

明らかに様子の変わったアテムにユウギは戸惑いながらも、体はどんどん熱を帯び、
自分の知らない感情が内側から溢れてくるのがわかった。

唇から離れたアテムは首筋、鎖骨と辿り、弄ったせいで少し尖った乳首を薄い舌先で転がした。
片方は包み込むように大きく回す。
女の胸は刺激を与えれば大きくなる可能性があると聞いたことがあるな、と僅かながら残っていたアテムの理性が呟いた。

「ひゃぁ……アテム……なんだか……変だよぉ……それ…やめて……」
「ユウギ………これは、お前が好きだからするんだ。だから……受け入れてくれ」

多量の唾液を含ませ、次は腹の窪んだそこを攻める。

「やぁ……っ!く、くすぐったい…!」

ユウギはビクリと体を引きつらせるが、アテムはしっかりと腰を押さえ逃がさない。
まるで刻印するかのようにさらに下肢へ口付けを落としていくアテムは、無防備に投げ出されていた両足を大きく割った。

「……………綺麗だ」

赤く開いたそれを、アテムは愛おしそうに見下ろす。
ユウギの両膝をさらに深く押すと自然とその花は持ち上がり、アテムは少し身をかがめ、湧き水でも飲むようにそこに口付けた。

「アテム……!?そこは………き、汚いよ……っ、だって……おしっこするところなのに……あっ、あ、ああ……っ」

下半身を高くあげられたユウギは体を支えるのに精一杯で、ダメだと思っていても抵抗などできなかった。
アテムはまるで花びらの数を数えるように一枚一枚丁寧に舌で襞をめくり、入るだけ奥を目指した。

「やぁ………だめ………っ、ボクおかしくなっちゃう……怖い、怖いよアテム……」

優しかったアテムが言うことを聞いてくれなくなり、わけもわからないまま体の内側を暴かれることにユウギは不安の色を濃くした。
しかし情熱的なアテムに体は疼いて仕方がなく、アテムに導かれるまま、初めての感情の正体を知りたがっていた。それは快感という、未知の感覚。

膣内が潤ってくるのを舌先で感じたアテムは、その体液を塗りつけるように今度は入口の蕾を押しつぶすように嘗め回した。

「ああっっ!やあぁ、やあああっ…!!それ……っ!!やぁっ!」

急に電流が走ったようにユウギはつま先をピンと伸ばした。身じろぎして暴れるのでアテムはユウギの腰を一端下ろす。

「ユウギ……そういう時は『気持ちイイ』って言うんだぜ?」
「き、……気持ち、い、い…?」
「ああ。ユウギのココがこんなに濡れてる」

そう言って人差し指の第二関節の背をぬめったソコで上下させ、アテムは微笑む。

「あうぅ…っ」

ちょっとした刺激でもユウギは過敏に反応してしまい、無意識に股を広げてしまう始末だ。

「ユウギ……」

快感に忠実なユウギの痴態に、アテムはそろそろ我慢の限界を感じていた。 
子供以上に何も知らない純真そのもののユウギを奪うことに抵抗がないわけではない。
ゆっくり育ち始めた「好き」という感情が成熟するのを待ち、しかるべき時に結ばれるのも悪くない。

だが無知のまま…素直な感受性を持ったままのユウギを性で支配したいと思った。
そうすればきっとユウギの中にある……絶対的な存在に勝てる。
もはやそれしかない。いや、そう思い込みたいのかもしれない。

アテムの中にはユウギへの愛情と同時に去来した独占欲が渦巻いていた。
セトがユウギの本当の性を知らないわけがない。
知っていてそばに置くために、周りに悟られないよう本人にすら教えていないのだ。
本人が言い出しさえしなければ、この外見なら周囲は勝手にユウギは少年だと思うだろう。
宮は女人禁制な上、厳格なセトが禁を破るなど誰も思わないし、心の隙をうまくついたやり方だ。

そこまでしてユウギといる理由は、はたしてマハードに押し付けられたからだけなのだろうか。
アテムにはそう思えなかった。たとえ今は家族のような感情しかなくても、ユウギがそれなりに成長すればセトの気も変わるかもしれないし、
ユウギが大人になるのを待っているのかもしれない。
アテムはなんとしてもセトを出し抜きたかった。

「これを見ろ、ユウギ……これは俺が男だという証だ」

アテムは腰紐を取り、簡易的な布を取り去った。
張り詰め、猛々しい屹立を目の当たりにしたユウギはごくりと息を飲む。

「こ、コレ何…?ボクにはないよ…?」
「そうだ。男にはあって、女にはない。ユウギは女だからな」
「ボクって女なの?」
「ああ」

必要だとは思いつつも、いきり立ったアテム自身はすぐにでも解放されたがっていて、説明すらもまどろっこしく感じたがアテムは辛抱強く耐えた。

「男は女を愛する時に…これを女に入れるんだ」
「そ、そうなの……どこに?」
「ユウギが一番気持ちいいところ」
「ボクが……一番………っ、あっ……」
「……?どうした」

ユウギは突然脚を閉じ、恥ずかしそうに頬を掻いた。

「あのね……ボクの一番イイところにアテムのそれを入れるんだ、って思ったら…なんかお腹がきゅう、ってなったんだ」
「ふむ………子宮か」
「しきゅう、って?」
「子供を作るところだ」
「こ、こども…!?」

さすがに今そこまで説明する余裕はなく、アテムは傍に落ちていたマントを敷き、ユウギをその上に寝かせた。

「さぁ……どこに入れてほしいか教えてくれ。答え合わせだ」
「う、うん…アテムも知ってるくせに……さっきからそこばっかり弄るんだもの」
「じゃあ聞くまでもないな」

再びユウギの膝を割り、アテムは熟れた入口に屹立を宛がった。身をかがめ、ユウギにキスを落とす。

「ん……ぁ……アテム……アテム…」

絡み合う舌で唾液を分け合いながら、深さを増していく。
体内に水音が響く度、ユウギの体がほぐれていくのがわかった。

「…………怖いか?」
「…………………ううん……君となら、怖くない………よ………」

「………………お前が欲しくてたまらない」


アテムはゆっくりと腰を落とした。
十分に濡れているとはいえ、できるだけ痛みは与えたくない。
この行為が快楽を伴うものであるとユウギに認識させなければ、彼女を独占することはできないからだ。

「力を抜くんだ………俺に呼吸を合わせて」
「……うん……あ………はぁ…………ん……」

ユウギの柔らかい肉壁を擦ると、甘美な刺激がアテムの脳に届く。今すぐ貫きたい衝動をなんとか抑えながら、深く、深く沈めていった。

「君を……すごく感じる………これが君なんだね………」

熱っぽい視線で身をよじらせながら、ユウギは受け入れやすいよう、さらに体を開く。
額に汗が滲むアテムは眉を寄せ、顔を歪めた。

「……ど、どこか痛いの?アテム…」
「いや……、ユウギの中が気持ちよすぎて、我慢するのが大変なんだ」
「アテム………」

ユウギは何か思いついたように、突然アテムをギュっと抱きしめた。

「あぁう………痛…っ」
「ゆっ、ユウギ……」

まだ入口近くだったものが、一気に奥まで進み入る。
アテムは突然やって来た摩擦の快感に腰を震わせた。

「ボク………ちょっとくらい痛くても平気だよ……?だから……アテムがいいようにしてくれると、いいんだ…」
「……………ユウギ……」

アテムの中に残っていたわずかばかりの理性はユウギの言葉でどこかへ行ってしまった。
ゆるゆると進めていた腰を、一気に突き上げる。

「ああっ、んっあ、あ、…!アテム……!」

息は荒くなり、アテムは夢中で腰を動かした。
初めて他者を受け入れるそこはあまりにも狭く、アテムの侵入を拒むくせに一度入ると執拗に纏わりつき、離そうとしない。

「熱い……熱いよ……君……の……っああ、ボク……バラバラになっちゃう……」
「ユウギ………」
「アテム…ぅ…ん……ん、アテ…む…」

何度も互いの名前を呼び合い、アテムは口付けを繰り返しながら、律動も止めなかった。
肩を抱いている手とは別の空いた手をもぐりこませ、ユウギのクリトリスに刺激加え続ける。

「アテム………っ何か……何か変……何かこみ上げて……怖い、どうしたら…いい、のっ……」
「何もしなくていい……感じるままお前を解放すればいいんだ………俺も、そろそろ限界だ」

アテムが出し入れするたび、濃密に繋がったそこからユウギから分泌された愛液が溢れていた。
肌がぶつかり合う音の間隔がしだいに短くなり、ユウギの嬌声が庭中に満ちていく。

「怖いなら……俺に掴まってろ………っ」
「あう、あ、あ、あ、アテム、アテム…………ッ!!!」
「………っ」

アテムは一層深く突き刺し、最奥まで届いた時果てた。
最後の一滴までユウギの中に注ぎ終わるまで、射精の感覚に恍惚としている。

「あ、あ………温かい………何かが……ボクの中に……」

気持ちよさそうなアテムを見て、ユウギも嬉しくなる。
こんな自分でも誰かのために役立てたのならこれ以上嬉しいことはない。
それが大好きな人なら、なおさらだ。

繋がったままアテムは倒れ込み、二人は抱き合いながら軽くキスをした。

「ユウギ………俺はこんなにも誰かを愛しいと思ったのは初めてだ」
「いとしい………」
「好きの最上級ってことだ。……愛してる」
「あい………」

アテムが口にする愛の言葉がユウギの舌を伝わって脳に染み込む。
その度に胸の真ん中辺りが苦しいような、切ないような気持ちになった。

「今俺としたことは……誰とでもしていいことじゃない。俺とだけだぜ?たとえセトでも……しちゃいけない」
「………セト様はキスもしてくれないんだもん。するわけないよ」
「したいと思うか……?セトと」
「………………うー…わかなんない。難しいよ…」

ユウギは頭を抱え、うんうんと唸った。アテムの問いに応えたかったが、
今アテムとしたことをセトとしたいかなど複雑すぎで想像することすらできない。

「……そうか。すまない。じゃあ約束してくれ………俺以外とは、しないこと」
「………そうだと、アテムは嬉しい?」
「ああ」
「じゃあそうする!ボク、アテムとしかしない」

今度はわかりやすい要求にユウギは笑顔を見せ、アテムは苦笑した。
愛の誓いとまではいかなくても、今は単純な約束でいい。アテムはそう思った。
この純粋さもすべて、愛しいのだから。

「ユウギ…………明日も会いに来てくれるか?」
「………え?アテムは来れるの?」
「ああ。明日は必ず来よう」

次に会う約束をすることなど初めてでユウギは驚いたが、アテムと明日も会えると思うと嬉しくてしかたがなかった。
明日は特に用事も言いつけられていないし、セトは神殿で祈祷のために長く篭ると言っていた。

「うん、明日も来るよ。嬉しいな」

ユウギはアテムの腕に包まれながら、目を閉じる。
火傷しそうなほどの熱は徐々に覚め、ユウギの中にじんわりとした温かさだけが残った。


そしてアテムはどうすればユウギを傍におけるか考えていた。
このまま連れ帰ってもいいが、突然身分のない者を正妃にと言っても王宮が混乱するだけだろう。
とりあえずは側近であるシモンに相談し、他の神官たちも説得して根回しする必要がある。
それが終わればユウギに自分の身分を明かし、王宮に来て欲しいと伝えよう。

セトに掛け合うのはそれからだ。
忠誠心の厚いセトが王になる自分の要求を拒否するとは思えなかったが、
頭がよく魔力も強い彼が家族のように大切にしているユウギを簡単には手放さないかもしれない。
疑うわけではないが…万が一に越したことはない。
それほどまでに、アテムはどうしてもユウギを手に入れたかった。


その日ユウギとアテムは陽が落ちる直前まで一緒にいて、名残惜しく別れた。



しかし次の日、ユウギがこの庭を訪れることはなかった。
その次の日も、その次の日も…。

 

 

 


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