いつものようにユウギに気を使って初めは口に手をあて堪えようとしたのだが、結局噴出してしまい徒労に終わった。 「もー、いつまで笑ってるのさ。ボク、とっても傷ついていんのに」 不貞腐れながらもユウギは盤上の駒を動かした。 「だから男同士はしないって言っただろう。普通は」 会話しながらもアテムの攻めには容赦がない。アテムの打った手にユウギは眉間に皺を寄せた。 「ユウギ………まさかとは思うが…性別はわかるか?」 ううん、とユウギは頭を捻ってその単語が自分の頭の中にあるか探ってみる。 「…………わかんない」 それにしても、世の中の基本的なことを知らないというのは笑い事ではない。 「ユウギは文字を覚える前にもっと知らなくてはいけないことがたくさんあるな」 この前の、というのはキスのことだ。 「………なんだ?キスしたいのか?」 頬を赤くし、モジモジと膝を擦りあわせるユウギの様子に気付いたアテムは余裕たっぷりに笑った。 「う、うん………なんかね…この前から変なんだ…キスって考えただけで胸がドキドキして、体が熱くなって…ボク病気なのかな」 アテムは駒を握っていたユウギの手を強引に取り、自分の左胸に押し付けた。 「あっ…駒が」 ユウギの手からこぼれた駒が転がり、すぐそばの池に落ちる。 「ほら……どうだ。ユウギのその澄んだ瞳に俺が映ると…この胸は早鐘のように高鳴る」 手の平から伝わる鼓動に、ユウギは目を閉じた。 「この音……すごく心地いい……君の肌………布の上からなのに……すごく熱い」 二人はより近づこうと膝を立てるが、その拍子に盤が動き、駒が全て倒れてしまった。 「む…………」 ユウギはそう言って駒を並べ始める。 「ここで…この後これで……あれ」 駒が足りなくてユウギはキョロキョロと見回す。 「ああ、いけない。届くかな……」 ユウギは池の淵から精一杯腕を伸ばす。あと少しで届きそうだった。 「うー…ん、も、もうちょっと」 蓮の葉は年季の入った大きなものであれば茎はかなり頑丈になっていて、ある程度重いものにも耐えることができる。 池なので流れはないが、葉を揺らしたせいで波紋が影響され駒がさらに遠のき、ユウギは焦って前のめりになってしまった。 「わ…………!?」 盛大な水音がし、ユウギは頭から池に落ちた。 「……わわっ………ど、どうしよっ」 なんとか水面に出れども混乱したユウギはがむしゃらに手足を動かし、沈むまいと大量の水の中を必死にもがいた。 「あまり動くな。蓮のトゲで怪我をするぞ」 アテムは難なくユウギの傍までたどり着くと抱えるように腰に手を回し、急に安定したユウギは目をぱちくりとさせた。 「アテム……お、泳げるの?」 国土は砂に覆われているが、命の源となる広大で肥沃なナイル川を有している。 「足を前後に動かしてみろ。ゆっくり………そう。上手だ」 アテムに支えてもらいながらタイミングを合わせて水を下に向って蹴ると、なんとか沈まなくて澄む程度に維持できるようになった。 「水の中って、こんな感じなんだ……沐浴とはまた違うね」 セトほどの高官になれば宮に湯殿を持っていてもおかしくはないが、自分以外の者と入るなど下手をすれば家族間でもないだろう。 「また入りたいなぁ、お風呂」 「風呂か……」 もちろん自分の宮にある風呂に連れて行くことはできる。ユウギが喜ぶのならそうしてやりたい。 「………………」 アテムが思案に暮れている様子を、ユウギはじっと見つめていた。 (この前のみたいにまた………くっつきたいなぁ…) 抱きしめ合うよりもずっとずっと相手を感じられる、キスという行為。 「…………、ユウギ?」 自分に向けられる大きな瞳の存在に気付いたアテムは、どうしたと声を出す前に小さな唇によって制止された。 「…!」 ユウギの思わぬ行動に驚いたものの、アテムはすかさず反応し腕の力を強めると、さらに深く、角度を変えてはそれに応えた。 「んっ、ふぁ…、ん、ん…っ」 堅く目を閉じ、ユウギはアテムの舌を夢中で味わった。
静かになった中庭には小鳥の囀りが遠く、 空に太陽は白く輝き、闇など入り込む隙間のない―― 光の庭。
離れないように、
水中でもどかしい思いをしていたのはユウギだけではない。 「……君が好き………君のこと考えると、自分のことがわかんなくなっちゃうくらい……それで、それでね…」 ユウギはすでに全身にろくに力が入らず、ゆらゆらと揺れながらもずっとアテムへの気持ちをなんとか伝えようとしていた。 キスと言葉。
「あ、アテム……っ」 たった少しの間でも離れていたのを惜しむように再びキスが降り注ぐ。 ちゅ、ちゅ、っと唇を鳴らしながら、アテムはユウギの腰紐に手を掛け、結び目を解いた。 「服、脱ぐの?」 男同士で気を使う必要もないとアテムがユウギのたった一枚の布切れを取り払った時だ。
確かに脱がせたのは服を乾かすという大義名分があったが、さらに深いスキンシップを目論んでいなかったと言えば嘘になる。 しかしあらわになったユウギの下半身にはそれを実行するための象徴が…――なかった。 やがて停止した彼の思考がのろのろと動き出し、一つの答えを導き出す。 白い胸は若干のふくらみが見えるものの女だと認識するには至らず、明らかな発育不良だろう。 しかし実際に事実を目の当たりにした今、アテムはそれを受け入れるしかなかった。 「…………アテム?」 ユウギはキスの続きを今か今かと待ちわびているのに、自分の下半身を凝視するアテムを不思議に思い、首をかしげた。 やがてアテムはおもむろに視線の先の割れ目の……割線の始点の肉の間に、人差し指を埋めてみた。 「???……何?」 ユウギは特に恥らう様子もない。 それならば、とアテムは指の関節を折って暗幕の中を探り、隠されていた小さな突起を掻くように弾いた。 「………!?わぁっ……!あ、アテム…くすぐったいよ。何するの」 ユウギは驚いて抗議の声を上げる。 女性器ならばあって当然なものだが、アテムは直に触れてやっと実感した。 「ユウギ………!」 アテムはユウギへの愛しさが湧き上がり、その感情は下半身に直接集まった。 たまらずアテムはユウギへ口付け、平らな胸の中心にある薄桃色の突起をつまんだ。 「あ……アテム……ぅ……んっ……い、いた…」 明らかに様子の変わったアテムにユウギは戸惑いながらも、体はどんどん熱を帯び、 唇から離れたアテムは首筋、鎖骨と辿り、弄ったせいで少し尖った乳首を薄い舌先で転がした。 「ひゃぁ……アテム……なんだか……変だよぉ……それ…やめて……」 多量の唾液を含ませ、次は腹の窪んだそこを攻める。 「やぁ……っ!く、くすぐったい…!」 ユウギはビクリと体を引きつらせるが、アテムはしっかりと腰を押さえ逃がさない。 「……………綺麗だ」 赤く開いたそれを、アテムは愛おしそうに見下ろす。 「アテム……!?そこは………き、汚いよ……っ、だって……おしっこするところなのに……あっ、あ、ああ……っ」 下半身を高くあげられたユウギは体を支えるのに精一杯で、ダメだと思っていても抵抗などできなかった。 「やぁ………だめ………っ、ボクおかしくなっちゃう……怖い、怖いよアテム……」 優しかったアテムが言うことを聞いてくれなくなり、わけもわからないまま体の内側を暴かれることにユウギは不安の色を濃くした。 膣内が潤ってくるのを舌先で感じたアテムは、その体液を塗りつけるように今度は入口の蕾を押しつぶすように嘗め回した。 「ああっっ!やあぁ、やあああっ…!!それ……っ!!やぁっ!」 急に電流が走ったようにユウギはつま先をピンと伸ばした。身じろぎして暴れるのでアテムはユウギの腰を一端下ろす。 「ユウギ……そういう時は『気持ちイイ』って言うんだぜ?」 そう言って人差し指の第二関節の背をぬめったソコで上下させ、アテムは微笑む。 「あうぅ…っ」 ちょっとした刺激でもユウギは過敏に反応してしまい、無意識に股を広げてしまう始末だ。 「ユウギ……」 快感に忠実なユウギの痴態に、アテムはそろそろ我慢の限界を感じていた。 だが無知のまま…素直な感受性を持ったままのユウギを性で支配したいと思った。 アテムの中にはユウギへの愛情と同時に去来した独占欲が渦巻いていた。 そこまでしてユウギといる理由は、はたしてマハードに押し付けられたからだけなのだろうか。 「これを見ろ、ユウギ……これは俺が男だという証だ」 アテムは腰紐を取り、簡易的な布を取り去った。 「こ、コレ何…?ボクにはないよ…?」 必要だとは思いつつも、いきり立ったアテム自身はすぐにでも解放されたがっていて、説明すらもまどろっこしく感じたがアテムは辛抱強く耐えた。 「男は女を愛する時に…これを女に入れるんだ」 ユウギは突然脚を閉じ、恥ずかしそうに頬を掻いた。 「あのね……ボクの一番イイところにアテムのそれを入れるんだ、って思ったら…なんかお腹がきゅう、ってなったんだ」 さすがに今そこまで説明する余裕はなく、アテムは傍に落ちていたマントを敷き、ユウギをその上に寝かせた。 「さぁ……どこに入れてほしいか教えてくれ。答え合わせだ」 再びユウギの膝を割り、アテムは熟れた入口に屹立を宛がった。身をかがめ、ユウギにキスを落とす。 「ん……ぁ……アテム……アテム…」 絡み合う舌で唾液を分け合いながら、深さを増していく。 「…………怖いか?」 「………………お前が欲しくてたまらない」
「力を抜くんだ………俺に呼吸を合わせて」 ユウギの柔らかい肉壁を擦ると、甘美な刺激がアテムの脳に届く。今すぐ貫きたい衝動をなんとか抑えながら、深く、深く沈めていった。 「君を……すごく感じる………これが君なんだね………」 熱っぽい視線で身をよじらせながら、ユウギは受け入れやすいよう、さらに体を開く。 「……ど、どこか痛いの?アテム…」 ユウギは何か思いついたように、突然アテムをギュっと抱きしめた。 「あぁう………痛…っ」 まだ入口近くだったものが、一気に奥まで進み入る。 「ボク………ちょっとくらい痛くても平気だよ……?だから……アテムがいいようにしてくれると、いいんだ…」 アテムの中に残っていたわずかばかりの理性はユウギの言葉でどこかへ行ってしまった。 「ああっ、んっあ、あ、…!アテム……!」 息は荒くなり、アテムは夢中で腰を動かした。 「熱い……熱いよ……君……の……っああ、ボク……バラバラになっちゃう……」 何度も互いの名前を呼び合い、アテムは口付けを繰り返しながら、律動も止めなかった。 「アテム………っ何か……何か変……何かこみ上げて……怖い、どうしたら…いい、のっ……」 アテムが出し入れするたび、濃密に繋がったそこからユウギから分泌された愛液が溢れていた。 「怖いなら……俺に掴まってろ………っ」 アテムは一層深く突き刺し、最奥まで届いた時果てた。 「あ、あ………温かい………何かが……ボクの中に……」 気持ちよさそうなアテムを見て、ユウギも嬉しくなる。 繋がったままアテムは倒れ込み、二人は抱き合いながら軽くキスをした。 「ユウギ………俺はこんなにも誰かを愛しいと思ったのは初めてだ」 アテムが口にする愛の言葉がユウギの舌を伝わって脳に染み込む。 「今俺としたことは……誰とでもしていいことじゃない。俺とだけだぜ?たとえセトでも……しちゃいけない」 ユウギは頭を抱え、うんうんと唸った。アテムの問いに応えたかったが、 「……そうか。すまない。じゃあ約束してくれ………俺以外とは、しないこと」 今度はわかりやすい要求にユウギは笑顔を見せ、アテムは苦笑した。 「ユウギ…………明日も会いに来てくれるか?」 次に会う約束をすることなど初めてでユウギは驚いたが、アテムと明日も会えると思うと嬉しくてしかたがなかった。 「うん、明日も来るよ。嬉しいな」 ユウギはアテムの腕に包まれながら、目を閉じる。
セトに掛け合うのはそれからだ。
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