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● 代わりは必要かな?


(サラリーマン設定:R-18)
written by 緑豆






「へたくそ。」

十代の第一声はとんでもないものだった。
先ほどまでヨハンの下で乱れていた十代の目に、正気の色が戻ったと思ったら、いきなりこれだ。
十代の身体を研究して常に最善を尽してきたヨハンにとって、これ以上酷い言葉はない。

「何が不満なんだよ。」

「うるさい。へたくそ。」

十代はヨハンに背を向けると、寝る体勢に入ってしまう。取り付く島もなかった。
聞く耳持たずな十代の態度に、流石のヨハンも怒りを覚えた。

「ああそうですか。下手で悪かったですね!」

十代が正気に戻るまでの間に処理は済んでいるから、不貞寝しても問題ない。
ヨハンも十代に背を向けると、眠ってしまう事にした。
いつもなら十代を腕に収めながら眠るから、温もりがなくて少し寒い。
ヨハンは身体を丸めて、無理矢理目を瞑った。

 


十代の不機嫌は次の日まで続いた。
その煽りを受け、ヨハンも不機嫌になる。
入社式で意気投合して以来こんな事はなかった。
思いを打ち明けて同棲を始めてからも、喧嘩はするものの仲は良かったのだ。
仕事に支障をきたすほど子供ではないが、ヨハンと十代の仲は、一向に直る様子がなかった。

「ヨハン。明日の会議の資料どうなってる?」

「できてるよ。後で目を通しておいてくれ。」

「わかった。」

至って普通の会話だが、そこに漂うのは冷たい空気。いつもの温もりはない。
ヨハンはそれにこっそりため息をつくのだった。

 


「で、何故俺のところに来る。」

「だってお前、十代と長いだろ?」

ヨハンが相談相手に選んだのは、万丈目だった。万丈目は十代の幼馴染で、本人曰く腐れ縁だ。
示し合わせたわけではないのに同じ会社に入社していたのだから、ちょっと妬けてしまう。
だが、十代と万丈目の間に友人以上の関係がないと分かっているから、負の感情を持つ事も無く、相談できるくらい仲が良くなった。

「まったく…。一体何があった。」

やっぱり万丈目はいいやつだ。そう思いながらヨハンは事情を説明した。

「なぁ。十代が今まで付き合ってきたのってどんなヤツだった?そんなに上手いヤツだったのか?」

「知るか!」

「なんでお前まで怒ってるんだよ。」

「何が悲しくて同僚の下事情を聞かされなければいけないんだ!」

「聞いてくれたのは万丈目だろ?」

「事細かに話す必要がどこにある。」

「だってさ…。」

もしかしたら、十代が好きな体位とか感じる場所とか、そんな話をしたことがあるかと思ったのだ。
今までどんな相手とどんなプレイをしてきたのかヨハンは聞いたことが無かったし、本人の口からはあまり聞きたくない。

「お前の話はただのノロケだ。」

「どこがだよ。十代の機嫌がよくないことはお前だって分かってるだろ?」

「話し合え。それで解決だ。」

「ちょっと待てって!」

引き止めるヨハンを振り払い、万丈目は行ってしまった。

「話し合え…か。」

十代が話し合いに応じてくれるか分からない。だが、そうする以外ヨハンに道は無かった。
ため息を一つつくと、ヨハンは仕事に戻る事にする。
少しでも十代の機嫌が良くなる事を祈りながら、ヨハンは執務室へと戻っていった。

 


一人で昼食を終えて仕事をしていた十代は、定時近くになって先輩の天上院吹雪に呼ばれた。
何かトラブルがあったのかと思いついていけば、着いた先は資料室だった。

「探し物か何かですか?」

「いや、聞きたいことがあってね。」

わざわざ人目のない所で話さなければならない事など、十代には検討もつかない。
だが、吹雪の表情が優しかったから十代は緊張せずに尋ねた。

「何でしょう。」

「うん。ヨハン君と何があったのかと思ってね。」

「べつに…何も無いです。」

「そうかい?力になれるんじゃないかと思ったんだけど、迷惑だったかな?」

十代とヨハンの関係は社内でも半ば公認である(らしい)が、十代たちの口からはっきりと伝えたのは極少数で、彼はその内の一人だった。
確かに、彼なら相談できない事も無い。
だが、躊躇う気持ちが大きかった。何せ、事情が事情だ。
いくら関係を知られているとはいえ、他人の痴情の縺れなど聞きたくないだろう。
そう思ったのだが、十代が吹雪を見つめれば、促すように微笑まれた。それを見て、十代は思い切って相談することにした。

「その、よ…るの事なんですけど。」

「よる?ああ、夜ね。うん。仲がいいのはいい事だね。趣味の相違か何かかな?ヨハン君が変態的なプレイでもしてきた?」

「ち、ちがいます。そうじゃなくて…。」

あっさりと乗ってきた事にドギマギしながら、十代は慎重に言葉を選ぶ。

「ヨハンが…じゃなくて、えっと、ヨハンと、その、してると、頭ん中がぐちゃぐちゃになって、何も考えられなくなって、
俺は、ちゃんとヨハンだって分かりながらヨハンとしたくて、でもヨハンは、その、下手で、俺の意識をめちゃめちゃにしていくんです。
最初のうちは我慢してたんですけど、この頃エスカレートしてきて、意識を保ってるのが難しくって。」

「おやおや。十代くんは、もっと落ち着いてしたいと?」

「…はい。」

「そうできないのは、ヨハン君が下手だからと思うのかい?」

「下手だから…じゃないんですか?だって、あんなに苦しいのに。」

十代の辿り着いた答えとは違う答えを、吹雪は持っているのだろうか。
上目遣いで吹雪を見れば、吹雪は困ったように笑う。

「十代君はヨハン君以外と経験した事あるかい?」

「いえ、ない…です。」

恋愛に興味のなかった十代は、ヨハンが初恋の相手で始めての相手だった。
だから、本当はヨハンが下手なのかどうかなんて分からない。
でも、ヨハンの与えてくる刺激が苦しくて仕方が無いからそうだと思ったのだ。
素直にその事を伝えれば、吹雪は考え込んだ後に、十代に提案してきた。

「僕としてみるかい?」

「……。…はい?」

「僕をヨハン君の代わりにしてみないかい?自分で言うのもなんだけど、上手いよ?
十代君が僕をそういう風に好きじゃないっていうのは分かってるし、僕も君とヨハン君の仲を裂こうとは思わない。大丈夫。途中でやめてあげるから。」

「あの、それになんの意味が。」

吹雪が近づいて来たから条件反射のように後ずさるが、すぐに机にぶつかり距離を縮められた。

「大丈夫。ちょっと気持ちよくなるだけだから。」

下半身を優しく撫でられ、十代は身体を硬直させた。

「大丈夫力を抜いて。」

十代の背に回された手はゆっくりと宥めるように背中を撫で、もう片方の手は的確に快楽を引きずり出していく。
普段からは想像できないほど淫靡な雰囲気を醸し出す吹雪は、会社の味気ない資料室の空気を一気に塗り替えていく。

「そう。リラックスして。」

「…ん…っ。」

気持ちがいい。
どんどん身体が高ぶっていくのが分かる。

思わず仰け反れば、背中にあった手が首筋を擽った。
吹雪からの愛撫を受け、十代は吹雪の言葉が嘘ではなかった事を思い知る。
吹雪をそういう目で見ていないにも関わらず、十代の身体はあっさりと火が付いた。
そして、ヨハンがやはり下手だという事が分かった。吹雪の愛撫では意識が千切られそうな感覚には陥らない。

幾晩も超えたのに改善されるどころか悪化したのだから、十代とヨハンの身体の相性が悪いという事なのだろうか。
心の中に冷たいしこりが出来たように感じて胸辺りのシャツを握り締めれば、吹雪が声をかけてくる。

「十代君。目を閉じて。」

「目…を?」

「そう。いい子だね。その状態で、今、十代君に触っているのはヨハン君だと思ってごらん。」

「なん…で?」

「いいから。ほら。君に触れているのは彼だ。君のここに触れているのも、全身をまさぐっているのも彼。」

「俺に…触れてるのはヨハン…。」

触れられているのを感じながら、それをヨハンと思い込む。
そうした時だった。
十代の鼓動が激しく跳ね上がる。呼吸が速くなり、声が我慢できない。

「ひぁっ…ぁあっ…なん…で…ぇ。あぁっ。」

霞がかかったように意識が散漫としてくる。
それが怖くて目を開けば、見慣れぬ服が目に入った。その瞬間、十代の意識ははっきりとし始める。
戸惑いで首を振る十代の耳元に吹雪は囁きかけてきた。

「答えは見つかりそうかな?」

「あ…の…。」

「あぁ。でも、このままじゃあ辛いよね。ちゃんとして上げるね。」

問い返す間もなく十代は机に押し倒された。
ズボンをずり下ろされ、吹雪の手が直接高ぶりに触れようとしてくる。十代はそれを慌てて止めた。

「遠慮しなくていいんだよ?」

「そうじゃ…ないです。」

「ヨハン君以外には触れられたくない。かな?」

「…はい。ヨハンじゃないと…ダメです。ヨハンじゃないと、ヨハン以外じゃ、俺は…。」

ヨハンが十代にもたらしていたのは、過度な快楽だった。
相手がヨハンだと思っただけで、感じてしまうぐらい十代はヨハンに嵌っている。
吹雪に擬似ヨハンをしてもらったお陰で、それがはっきりと分かった。たとえそれが苦しいものであったとしても、ヨハン以外とはしたくない。

ゆっくりと身体を起こす十代にあわせて、吹雪は身体を離してくれた。

「こんな事させてすみませんでした。」

「気にしなくていいよ。いいものが見られたしね。」

「いいもの?」

「うん。ヨハン君を思いながら感じていた君は、とても色っぽかったよ。ちょっと本気になりそうになっちゃった。あはは。僕もまだまだだね。」

快活に笑う吹雪を見て、十代も笑った。
もやもやしたものが解消された十代はすっきりした。時計を見ればもう定時を過ぎており、仕事をサボってしまったと苦笑する。
早く戻ってヨハンに謝ろう。そう思い、机に腰掛けたまま、膝まで下ろされていたズボンを引き上げようとした時だった。
何の予告もなく扉が開く。

「十代。いる……か…。」

入ってきたのはヨハンだった。
ヨハンは下半身を露出した十代とその前に立つ吹雪を交互に見比べて、すっと表情を消す。

「どういうことですか。俺と十代が付き合っているのは知っていますよね。」

聞いた事がないくらい冷たい声を出したヨハンは、ゆっくりと扉を閉めると室内に入ってくる。
誤解だと告げたかったが、ヨハンの雰囲気に押されて十代は何も言えなかった。

「安心していいよ。服の上から触っただけだから。」

「これから触るところだったと?」

「まさか。もう終わるところだったさ。人払いしておくから、資料を汚さない事と掃除する事を条件に好きにしていいよ。じゃあ、ごゆっくり。」

堂々と立ち去る吹雪を、目だけで見送ったヨハンは、扉が閉まったのを確認すると鍵をかけに扉へ向かう。
そして、十代のところにやって来るとおもむろに口付けてきた。

「ん…。」

全てを奪うような口付けに、十代の身体に熱が回る。
しばし口付けに没頭していたが、十代が足をもじもじさせている事に気づいたヨハンは口付けをやめた。

「吹雪さんは上手だった?吹雪さんは十代の望むように触ってくれた?十代のをこんな風にできるぐらい良かった?」

ゆっくりと扱かれて十代は吐息を漏らす。
吹雪に触れられた時とは段違いに気持ちがいい。だが、やはり意識が混濁するのは怖かった。

「あの人の前でこんな風に乱れたのか?どこまで触らせた?十代のいいところも触れさせたのか?」

「ひぁああっ。やっ、よはっ。」

「俺にはもう触られたくない?俺とはもう寝たくない?俺と…別れたい?」

愛撫が止んだ事にほっとしつつヨハンを伺えば、痛そうな顔をしていた。
こんな顔させたくない。
力が入らず震える手をヨハンに伸ばして、十代はヨハンを引き寄せた。されるがままに近寄ってくるヨハンに唇を寄せれば、唇を何度も啄ばまれる。

「…っ。ぅ…ん…ん……。」

ゆっくりと舌を差し込まれ、伺うように絡み付いてきたそれに舌を絡ませると、優しく吸われた。
軽いリップ音を響かせて唇を離すと、十代はヨハンを見つめて言った。

「怖いんだ。」

「怖い?」

「ヨハンとしてると、意識が朦朧としてきて、何をしてるか分からなくなって、ヨハンだって分からなくなって、苦しくて。」

「ずっと痛いのを我慢させてた?気持ちいい振りをしてくれていた?」

「ううん。気持ちよすぎて、苦しかったんだ。さっき分かった。でも、何が何だか分からなくなるのはやっぱり怖い。」

「十代。」

ヨハンの纏う雰囲気は柔らかくなっていた。
十代を包み込んだヨハンは、優しく耳元で囁く。

「俺が抱きしめていてもダメ?十代がどんな風になろうと、俺が十代を受け止める。」

「でも。」

「俺は十代に乱れて欲しい。めちゃくちゃに感じて乱れて欲しい。俺を感じてで気持ちよくなって欲しい。」

ヨハンは十代の同意を待たずに愛撫を開始した。
堪らず喘ぎ声を漏らす十代の唇を、ヨハンは優しく包み込む。
あっさりと解けていく身体は、ヨハンの手により暴かれた。ヨハンの指が最奥まで届き十代に先の行為を期待させる。
だが、先に進めば必ず意識が混濁する。それでも止めることができないと十代は分かっていた。
身体はヨハンを求めているし、ヨハンもすでに臨戦態勢だ。
ヨハンを受け入れるため、いつものように身体を反転させる。だが、それはヨハンによって止められた。

「ヨハン?俺はもう平気…」

「後ろからじゃなければ怖くないんじゃないかな。十代の身体のこと考えてバックでしてたけど、こうすれば。ほら、俺にしがみ付いて。」

十代はヨハンを見上げた。
ゆっくりと上体を倒してきたヨハンにしがみ付けば、ゆっくりと挿入される。

「ん…く…っ…ぁ。」

いつもと違って苦しい。でも怖くはなかった。

促すようにヨハンを引き寄せれば、それに応えるようにヨハンは律動を開始する。
動き辛そうだが、ヨハンは気持ち良さそうにしている。
いつもより浅いのに気持ちいのだろうか。
そう思っていると、ヨハンは嬉しそうに笑った。

「俺、こっちの方が好きかも。十代の顔見ながらするのって、すっごく気持ち良いや。」

「俺…も。これなら怖くない。」

「じゃあしばらくは、ずっとこうして向かい合ってしような。」

「しばらくは?」

「うん。バックはバックで気持ちいいから、たまにはさせて欲しい。」

「う、うん。」

エロい声で懇願されたら断る事などできない。
赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、十代はヨハンに思い切り抱きつくと、ヨハンからの刺激におぼれていった。

 

 

END








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