●この鍵を君に
written by saina
「はい」 「…え?」 いきなり鍵を渡される十代。彼は頭を傾けながらヨハンを見た。 「なに?」 「見れば分かるだろう?鍵だよ」 「鍵って…何の鍵?」 「お前な……この家の鍵に決まってんだろ?」 「…ぇ」 少し愕く。 「オレに?」 「俺にも仕事があるし、十代は帰る前に連絡もしないだろう?だからお前に鍵を渡せば、十代はいつでも、好きな時間に帰ってこれるぜ」 「…オレは、嫌だけど」 「じゅーだい」 「お前がいないなら、オレが帰っても、意味がないだろ?」 「―――…あーあ、お前さ」 思わず頭を撫でながらため息をつく。本当に仕方ないヤツだとヨハンは思った。 「十代は知らないか?鍵を渡す意味」 「?」 手を伸ばし、十代の腕を取り上げる。 「自分の家の鍵を他人に渡すってことは、その人は自分にとって大切で、信頼できる人なんだぜ?もう一つの意味は、…その人と分けたいってこと」 「なにを?」 「家族の暖かさ」 鍵を手のひらに置き、ヨハンは十代のと重ねた。 「つまり、この家はお前が帰れる場所で、お前に暖かさを与えてくれる所なんだ」 ――――これはよく、プロポーズに使われていたモノなんだぜ? 少しだけ赤くなる十代。 言葉の意味を理解した彼は恥ずかしそうに顔を伏せて、相手の反応にヨハンはクスクスと微笑む。 「俺は、必ずこの家に戻る」 「…ん」 「必ずこの家に戻って、お前が帰るところで十代を待ってやる。十代が先に帰ったら、俺の帰りを待ってくれるか?」 「…ヨハンはズルイ」 「ん?」 「オレの応え、わかるくせに」 「今更だぜ?十代も俺のことをわかっているじゃないか?」 「…ズルイ」 「ハイハイ、すいません」 頭が優しく撫でられると十代は顔を上げてヨハンを覗き、 顔に小さなキスを贈った。 「…口の方がよかったかも」 「文句あるか」 「すいません。ありません」 「…鍵、ありがと」 「あぁ。いってこい」 「うん。いってくる」
この鍵を君に (帰る場所に着くために)
back
|