子供たちは夜の住人

【prologue】




物心ついた時から精霊が見えていた。
気味悪がられることも多かったが、精霊たちと意思疎通できることのすばらしさに比べれば、なんてことはない。

実のところ優越感もあった。

でも彼に、十代に。

俺以外にも精霊が見える奴と出会ったときの、あの高揚感はどうだろう。

そう、おれはきっと、ずっと誰かと共有したかったんだ。
自分の本当の感情を。 


 そしてそれが恋愛感情になるのを止めることはできなかったし、
止めようとも思わなかった。


自分の欲望には忠実だ。







しかしこの友人は………本当に18歳か!?

戸惑うくらい、色恋にうとい。


こんな孤島の学園で、デュエル三昧だとこうなってしまうのだろうか。
いやデュエル三昧は別にいいことだけれど………


接触に無頓着なのをいいことに、まず何かしら頭をなでることから始めてみた。
癖のある後ろ髪を指でといてみたり、えり足の髪をわしゃわしゃと遊んでみたり……

何度かに一度、首筋のラインをなぜてみる。




指にはり付いてくるようなきめ細かい肌の感触を何度でも確かめたくてつい多くなってしまうが、
さすがに首はくすぐったいみたいで、「やめろよ、」と言っては笑う。 



 まあしょうがない。
でも、そのポイントは覚えておくとしよう。





十代への接触がエスカレートしてるときはさすがに翔からの視線が痛いときがある。
だからといって止める俺ではないけど。

肩を抱くのもあたりまえになったこの頃はまるで自分の場所かのように十代の細い腰に手を添えている。 一見同じような体形をしてる俺たちだが、十代の腰、いや全体的に、俺より一回り細い。
これはレッド寮の食事事情に関係してるのかは計りかねる。
人種の違いかもしれないし。

ふざけあってじゃれあってる時なんかはシャツの下に手をすべりこませたりして、
薄い肌から浮き上がる骨盤の凸部をこっそり触ったりもする。

でもさすがに……ここまで反応がないと、自信なくすぜ。 

今までこんなに、誰かに積極的になることなんてなかったのになぁー。




廊下を歩いていた。

ルビーがうれしそうに喉をならす。
「どうした?」
人目など気にするはずもなく、ルビーの喉をゴロゴロと掻いてやる。

「ハネクリボーが近くにいるのかな?」

そしてその主も。

「いいじゃねーかよー まんじょーめーーー!」
「さん、だ!ええい!ついてくるな!」

遥か遠くにいてもわかりすぎるほど目立つ二人、十代と、万丈目だ。

すぐに駆け寄ろうと踏み出した時だった。
「おーーい、じゅう…」
「ヨハン君」

視界の端っこで水色の影が動き、行く手をさえぎる。

「うおっ、翔じゃないか! びっくりしたー」
「ごめんね」
「いや。俺こそ。どうしたんだ?」
「ヨハン君にちょっと言いたいことがあるんす………」
「ん?なんだよ」

翔のことを気にしつつも、目線はつい十代の方に向いてしまう。
ちなみに、何をじゃれあってるのか知らないが、
十代が万丈目に乗りかかって、振り落とされまいと食らいついている。
俺は早く騒ぎに混ざりたくてうずうずしていた。
「言いにくいんすけど………ヨハン君、兄貴になんていうか…よくべたべた触るでしょ?」

「え?うん。」
だから? といかにも当然のことのように振舞った。
過剰に否定したり怒ったりすれば確信犯だということがバレてしまうからだ。
翔はひとつ、小さなため息をついて、続けた。
「兄貴はただでさえガードが甘いし、気がついてないんだけど、
ヨハン君と兄貴が一緒にいるようになってから、他の生徒も兄貴にボディタッチが多くなっちゃったんすよ」

「……………」
「兄貴はなにかと目立つし、結構人気あるんす」


それは、わかる。

「僕と剣山くんの努力もわかってほしくって。
できたらヨハン君も、悪戯に兄貴に触るやつがいたら、威嚇してほしいっす」

………それは俺に言っているのか?と邪推しながらも、

「わかった」と答えた。





翔に忠告を受けた日から、少し距離をおいて十代を観察することにした。

さすがに俺ほどひどいやつはいなかったが
不自然に手を握ったり、ひざに手をおいてみたり、わざとらしく触れている奴も何人かいることがわかった。

おそらく今まで、翔と剣山がガードを固めていたのに、俺の出現が周りの奴の遠慮を解かせてしまったのかもしれない。


悪いことをした。
そして十代に近づくヤツらに嫌悪感を抱くと同時に、今までの自分を恥じた。

自分もあいつらとなにも変わらない。

子供のままのあいつを………
幼いのをいいことに、自分の欲を満たしたんだ。


いつも笑っていてほしい。
純粋に心から笑顔でいてほしい。

ずっと親友として傍にいたいなら、自分の態度をあらためなければならない。

「ルビィー?」

心配そうに覗き込むルビーの首をかいてやった。気持ちよさそうに目を細める。

「大丈夫、俺はガキじゃないから、ちゃんとやれるさ」





「おわー!今日の晩ご飯は俺の好きなエビフライじゃねーか!!やったー!!なあヨハン!!!」

毎回毎回飽きずにリアクションをとり続ける自分の兄貴に少しあきれながらも、剣山は言った。

「ヨハン先輩は、今日は自分の寮で食べるそうだドン」
「ええ!?そーなの!?月に一回のエビフライなのに……もったいねー!」
しゃべりながらもどんどん口に食べ物を運ぶ十代だったが、ふと箸を止めた。

「………なぁー剣山、なんか最近俺、変じゃねえか?」
「兄貴はいつも変ザウルス」
「あのなぁー! 人が真剣に言ってるのにー」

「どう変だドン? 体調が悪いのかドン?」
「いやっ、そーじゃねーんだけど……なーんか足りない気がするんだよなー、
でもそれがなんなのか、わっかんなくて気持ち悪いんだよなーーー!!」

「そんなのオラにもわかんないドン」
「うう。そー言うなよーーー」

まったく取り合ってくれない剣山に頬を膨らませた十代の頭にポン、と一人浮かんだ。

そーだヨハンに聞いてもらおう!
海老フライをだしにして………

こうして十代は夕食の海老フライを3本パックに入れて、意気揚々と留学生たちの寮へ向かったのだった。



廊下の照明はまだ点灯しておらず、真紅の絨毯の敷かれた薄暗い通路を十代は歩いていた。
「ヘイ、十代、どうした、こんな時間に」
「ジム!助かったぜ!ヨハンの部屋ってどこ?初めて来たからわっかんなくてよー」
直感の鋭い十代と言えど部屋を一つ一つ確認するわけにもいかず、立ち往生しかけたところにジムが現れた。
渡りに船とはこのことである。
「ヨハンなら2階の一番奥の部屋だぜ」
「サンキュ−!」

「ん?どうした?カレン」
ジムの友人であるワニのカレンが背中の定位置で暴れている。


「十代…何か持ってるのか?」「へ?この海老フライかな?」

十代がパックを差し出すと
「フンッッ フンッ」カレンの興奮は最高潮になった。

「マイフレンド、よかったらカレンにそれ一つくれないかな?」
十代は両手でしっかりにぎったパックに目を落とす。

3本あるし……いいよな。

「いいぜ!ほーらカレン、うまいぞー!」

十代がエビフライを放り投げると、カレンはうまくキャッチし、あっという間に飲み込んだ。
「サンキュー十代」
「いいってことよー。教えてくれたお礼!」


さて海老フライは2本になってしまった。

俺とヨハンで1本ずつ食うかな。
なんて十代が考えてると、廊下においてあった障害物につまづいて盛大にこけた。

「うわっっ」

派手に転がったが廊下は絨毯がはってあるのでそんなに痛くなかった。

「おーあぶねー」
大事なエビフライは無事だ。パックは両手でしっかり握られていた。

「じゅ……じゅうだい………」
「オブライエン!?」
十代がつまづいたのは傭兵オブライエンだった。
「どーしたんだよ!!!」
どんな時にも冷静沈着、無表情で隙など見せないオブライエンが今にも死にそうな顔をしていたので
十代は何事かと抱き起こした。
「どんな状況下におかれても生き抜くという設定のもと……3日間飲まず食わずの訓練をしていた………」
「えええ!?何してんだよー!」
傭兵たるものいついかなる時でも自己鍛錬を…とかなんとか立派なことを言っている声は消え入りそうな声だった。

十代はおもむろに海老フライを見た。この際1本になってもしょうがない。
いやほんとは2本ともあげたほうがいいのかもしれないが、
これはヨハンに持ってきたものであって………
いやでも目の前でオブライエンが死にかけている……

「う、うわああーーーっ」

ぐるぐる思考をめぐらせているうちに頭がパンクした十代は、
ドローするがごとく勢いよく海老フライをパックから引き抜き、オブライエンの口に攻撃表示した。

そして駆け出した。
ヨハンの部屋と思われる扉に一直線に。


オブライエンは薄れいく意識のなか、「う、うまい…」と一言つぶやき床に突っ伏したのだった。



うおおおおおおおーもう誰にも会わねえぜ!!!

留学生用の寮の廊下を十代は爆走していた。

「十代じゃないか」
「げ……!!!アモン!!!!」

アモンが笑いかけてくる。
しかし十代は恐ろしい未来を予想しておののいていた。海老フライはあと1本。

「ごめん!!!!急いでるんだ!!!」

ぴゅーーーっと疾風迅雷のごとく走りさった十代に、
アモンはいくらかしか傷ついたが、ポーカーフェイスな彼は顔には出さなかったという。



「ふ……」

渇いた声が廊下に響いた。





幾多の試練の末、十代はようやくヨハンの部屋の前についた。
息を切らしながらも、力まかせに扉を叩く。

「ヨハーーーン!いないのかよ〜〜〜!ヨハーーーン!」

十代がヨハンの部屋に向かっている時、
ヨハンは制服のベストを脱ぎ、いつものひらひらシャツと黒のパンツという軽装で本を読んでいた。

こうしてゆっくり読書するのもひさしぶりだ。
編入してからたいがいレッド寮の十代の部屋に入り浸っていて、荷物を取リにきたり、
着替えをしたりするときしかこの部屋を使っていなかった。

紅茶を熱めに入れて、夜の音に耳をすましながら好きな本を読む。
学園に来る前…十代に出会う前にはあたりまえにあった夜なのに、ずいぶん前のことのように思う。

不意にベッドの上に丸まっていたルビーが耳を立てる。

「……?どうした?」
遠くから足音がする。
足音でわかってしまう。そんな自分に苦笑してしまう。

「十代だな」

乱暴に叩かれるドアを開けると、十代が今にも泣きそうな顔をして立っていた。

「ヨ、ヨハーーーン!!いたのかよー!早く出ろよー!!!」

なんの警戒もなく自分の胸に飛び込んでくる十代をそのまま抱きしめたい衝動にかられながらも、
自制心と欲望の葛藤の間で空を切っていた両手はなんとか十代の肩の上に着地した。

「す、すまなかったな。まあ入れよ」

部屋の奥へ十代を招き入れ、落ち着いた十代から事の顛末を聞きだした。

「…つまり俺に持ってきたエビフライをアモンに食べられそうになったと」
「うん」
「それで走ってきたと」
「うん」

この際事実との多少の誤差はたいした問題ではなかった。

「ありがとな!十代」

「へへ」

エビフライを食べてみせるヨハンを見て、十代は屈託の無い笑顔を見せるのであった。

「それにしても、ヨハンけっこういい部屋に住んでんだなー!
いっつもレッド寮にいるから、レッド寮よりももっとひどいとこかと思ったぜ」

「ええ?あの寮より?」

あの寮以下の部屋を見つけるほうが難しいとヨハンは苦笑した。

「ま、レッド寮も居心地だけはいいだろー?」
「そうだな。まあ、十代といるのが楽しいってのもあるしな」

これは友達の範囲だろう、と一端考えてから言った言葉だった。

「だなっ」

ニカッと笑う。
その笑顔に安心する。

いちいち気を使って話したりするのはガラじゃないけど。
この笑顔をいつまでも見ていられるならそれもいいかとヨハンは笑い返した。





「よし!俺の勝ちだ!」
「ちっくしょー………負けた………惜しかったな。この時、こうしてればさー」

別の手を打っていても結局負けていたことに気付いた十代は床に倒れこんだ。
デュエルバカが2人そろえばデュエルが始まるのは自然な流れで。

「いけない…もうこんな時間だ。十代、寮にもどるか?送っていくぜ」
「なんだよー、送るって………あー寮に帰んのめんどくせー」
「じゃ今日はここに泊まれよ。俺とベッドが一緒でもよければな」

ヨハンはニシシと笑い冗談で言った。いくらなんでも男同士で同衾するなんてこの年齢じゃありえない。
一人はソファーになるだろう。

「いーのかよ!!?やったー!」

が、十代にとってはそうでもなかったようだ。

無邪気に喜ぶ十代にヨハンは自分に言い聞かせた。

友達同士で泊まりなんか普通だよな。うんうん。
 
フツウ
フツウ。



ブルー寮には共同のバカデカい浴場があるが、個室にもトイレと風呂が完備されている。
ましてレッド寮の十代が浴場に行ったんじゃ他の生徒がうるさいだろうし、ヨハンの部屋で風呂に入ることになった。

先に風呂に入った十代は、ヨハンが風呂から出るとベッドの上でぐうぐう寝息を立てている。

「あーあ」

ヨハンはバスローブに洗い髪をバスタオルで拭きながらも、ベッドに散らばったカードを拾い集めた。

それにしても……自分の服を好きに着ていいとは言ったものの、Tシャツと短パンの十代はちょっと目に毒だ。
こんなに露出の多い姿は寮でもジャージのため、なかなか拝めるもんでもない。


いや、こんなのはフツー、フツー

エロくない
エロくない

そんなヨハンの葛藤をよそに、健やかに眠っていた十代は小さくくしゃみをした。

「いけね……寒いかな。」



十代を起こさないように気をつけながら、右腕を背中にさしこみ抱きかかえる。
浮かせた背中の下から掛け布団を引き抜いてやり、ベッドの上の方に移動させ、枕をしいてやる。

「ん………」

(やべ、起きるかな……)


………どうやら大丈夫のようだ。


「まったく、子供みたいな奴。よし、おやすみのチューしてやろう」

誰に言い訳をしているのか、大きめの独り言が部屋に響く。

フツー
フツー

悪ふざけ、悪ふざけ。
規則正しい呼吸の音がかわいらしく、まだほんのり紅い頬に唇をよせてみる。

自分が何千回と親から受けた愛情の印のように。
そしてまた自分も誰かに向ける愛情の印として。

甘いにおいがした。

洗いたての髪からは石けんの匂いがするものの、
十代自身からは、いつもこの匂いがする。

甘く、ミルクのような匂い。

好きな匂いをもっとかいでいたいと思うのは人間の本能なのか、
ヨハンが変態気味なのかは誰も知るところではない。

十代の柔らかい頬から、そのまま首筋まで唇をなぞらえる。

「ん………」

目が覚めないのをいいことにべろりと首のラインを舐めあげて、
十代の髪をかきあげ、耳たぶを甘噛みした。

その柔らかさに、うっかり興奮してしまう。

「ヨ…ハン……?」
「起こしたか?ごめんな」

まるで何もなかったかのような口ぶりである。

「俺、夢見てた。ヨハンがどっかいっちまうんだ」
「なんだよそれ?俺はずっとここにいるぜ」

「そうだよな……なんか俺、最近変なんだ」
「変?」
「なんか急に不安になったり、何かが欠けてる気がする。
でもそれが何かわからなくて、もっと不安になるんだ」

そうだ、その話を聞いてもらいにきたんだった、と十代は今頃になって思い出した。

「十代……」

十代でもそんなことがあるのか、と思ったのと同時に、
デュエルにはめっぽう強くても心の部分はまだいろいろ不安定な青年期なのかもしれないと、
過去の自分を思い出したりもした。

早熟な自分が、まだ無垢な友人のために何ができるだろうか。

「大丈夫さ。なにがあっても俺はお前のそばで、お前を守る」

頭をなでてやると、十代は少し落ち着いたようだった。
「へへ、ヨハン、あったけー」
 
十代するすると布団の中を移動し、ヨハンの胸中に収まる。


あまりの密着にとまどいつつもこれは子供が甘えてるのと同じだと言い聞かせ、十代を抱きしめた。
母親がするように、父親がするように、頭と背中を軽くたたいてやった。
子供を寝かしつけるように。

十代の髪からかすかにするシャンプーの匂いに、自分の理性を失いそうになりながらも…


重なる手、
絡み合う足。

十代の近い呼吸がくすぐったい。甘い。
十代に触れるのはひどくひさしぶりだった。
 

「十代……」
愛おしくてつぶやいた。感情がこぼれてしまう。

「なんだ?」

胸に収まっていた顔が、見上げた。
大きな茶色い瞳が宝石のように透き通っている。

その角度は……犯罪的だった。


想いをつげるのは簡単だ。
しかし色恋にうとく、平気でベッドで同級生と抱き合える十代がどういう反応をみせるのかまったく予想がつかない。

もしかしたら、その広い常識にとらわれない大きな心で、
自分を受け入れてくれるかもしれない、とすら思う。

かなり都合のいい望みだとはわかっていても。

「おやすみのキス、しようぜ」
「へ?」
「日本ではしないんだっけ?」

もちろんそんなことは知っていた。

「しない……んじゃねーの?俺、親はいつも仕事で遅かったから、いつも寝るときはひとりだったんだ」
「そうなんだ………」

寝る時はいつも一人だったって?
それは子供にとってどんなに寂しいことだったろうか。
この無防備な甘えっぷりはその反動ではないのだろうか。

「ヨハン?」
「十代……」

こんな自分でも、十代の不安を埋めることはできるだろうか。
その笑顔の奥にあるすべてを、ぬぐいきれるだろうか。

せめて伝えたかった。
俺はお前のものだと。
すべてを捧げてもいいと。


桃色に潤う唇についにくちづけた。
優しく、でも唇の感触が伝わるように。

「ん……!」

少し驚いたようだったが、おやすみのキスかと思ってるのか、
十代も特に抵抗する様子は無い。

想像以上に甘い唇に、ヨハンは夢中になる感覚を感じていた。
弾力を確かめるように、舌で唇をひと舐めした。

「ヨ、ヨハン!」

「好きだ……好きなんだ、十代」

ヨハンのただならぬ様子にさすがの十代も思っていたものとは違うと感じたが、
かといってすべては遅かった。


お互いの体温を分け合う喜びを十代に知ってほしい。
十代の紅い舌は、熟れた苺のように、淫靡だ。

「は……ん………っ」

むさぼるように、舌を絡めては口内を味わいつつも、
十代の股に割って入った自分の足を、意図的にこすりあげる。

十代自身で勃ち上がるのを待ちたい気持ちもあったが、膝は、徐々に堅さを増した十代を教えてくれた。
せめてこの行為が、気持ちのいいものだということだけでもわかってほしい。

状況に対処しきれないのか、十代はされるがままだ。
ヨハンの愛撫をただただ一心に受けている。

「気持ちいいか?十代……」

「わかんねえ、わかんねえけど…………あっ」

十代の唇を解放したヨハンは首筋から鎖骨のあたりを攻めながらも、十代の下半身に右手をのばした。

男のものを触るなんて本来なら考えられないが、
好きな人の………十代のものとなれば愛しくてしょうがない。

「ヨハ………ン………そんなとこ………」

「自分でしてると思えばいい。俺は十代に気持ちよくなって欲しいんだ」

掛け布団をとりはらって十代の下肢に移動したヨハンは、なんの躊躇もなく十代自身をほおばった。

「ヨハン!!! あッッ」
羞恥に耐えるように、十代は両手で顔を覆っている。
頬はすでに上気していて薔薇色だった。

尿道の出口に微かに溜まっている透明な光る蜜を舐めとり、その穴をくすぐるように舌で攻めてやる。
もちろん手の動きは止めず、マッサージでもしてやるようにその下の袋も揉み上げる。

時々我慢できなくなった十代の腰が跳ね上がった。
十代の足を大きく開脚させ、ヨハンはさらに激しく律動を繰り返し十代を追い立てていく。

すっかり勃ち上がってはち切れんばかりのヨハン自身が、十代の蕾を求めて唾液のように透明な蜜を垂らしていた。

その蕾みをときどきくすぐってみるものの、今日のところは我慢することにしよう。
今日のところは、な…………

「ヨハン、もう……俺……!!」

「出る?我慢なんてしなくていいんだぜ」

そう言っていっそう陰圧をかけてやると、簡単に十代は果てた。
跳ねた反動でベッドに沈みこむがまだ息は荒く、射精後の余韻に支配される十代はいつもと違って妖しい色香をまとっている。

ヨハンは含み損ね股やらに飛び散った液を優しく愛撫するように啄ばみ、
丁寧に舐めとっていった。


「よかった?」

理性をとりもどしつつある十代に声をかけるのは少し気後れしたが、できるだけあっけらかんと聞いてみた。


「………」

友達と思ってたのに幻滅した?
裏切られた気分?
俺のことはもう嫌い?


一瞬にしていろんなことが頭を巡る。

「スッゲー気持ちよかった。初めてだ。こんなの」

ヨハンはにっこり笑った。
その十代らしい明るさを、いつも頼りにしている。

「そっか。 またしような」
「また!?」
「十代が不安になったらさ」
「………ああ………そういえば、なんか満ち足りた気分」

その感情を現す言葉をまだ十代は知らない。
肌を合わせることの幸福を知るには、まだ幼い友人。



十代が眠りにつくまで、そばにいて頭をなでてやるヨハンだっだ。





そんな夜の入り口。





fin






【epilogue】



ベッドで規則正しく呼吸している十代の頭をずっとなでてやっていたヨハンは、
ふいにベッドから抜け出しバスルームへ向かった。




ローブを脱ぎ、洗面台の大鏡に映る自分に気付く。

「……なんて顔してんだよ、俺は」

こんな安らかな夜に、自分だけが余裕の無い切羽詰まったような顔。


落ち着かない。
体がどうにも熱いのだ。


バスルームは広い。
白いタイルに白いバスタブ、金具類は本物の金だし、かなり気に入っていた。

シャワーはまだ冷たいままだったがかまわず頭からかぶった。

冷たくて気持ちいい。

さっきの十代との行為を何度も頭の中で繰り返している。

聞いたことのないような甘い声。
むせ返るくらい甘い十代の愛液。
飲み干した喉が焼け付くようだった。


「あちぃ………」


夜の行為とはあまりにも遠い、
そんな十代に……


後悔はしていない。

ただやり場のない熱を持て余していた。


「はぁ…あ………ッッ……十代……じゅうだい………」

好きな人の名前を呼んだ。

純粋に焦がれるこの気持ちと、
自分の今の行動はあまりにもかけ離れている。

物心ついたときから覚えた自慰という行為さえ、今日は違っていた。


膝をつく。
立ってさえいられない。


十代の唇を思い出すように自分の左手の指をむさぼるように舐めた。


右手は速さを増し、乱雑に擦り上げた。


「あ……ああ、っッ……」

溜め込んだ熱は吐き出すのも簡単で、
噴出した白濁の液が手の平に放たれ内股を伝う。


「はぁ……はぁ………」


脱力感。
倦怠感。

体の熱が引いていくのがわかる。


ああこれで、やっと眠ることができる………




静かな夜。
子供たちはベッドの中で息をひそめ、朝を待つ。


なんとかベッドに潜りこんだヨハンは十代を抱きしめて、深い眠りについた。



その表情はまだ、
健やかな子供のままだった。





そんな夜の深淵。






fin

 





















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