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●それは分割された一つの恋。



(共通テーマ:禁断の恋)
written by Saina







ヨハンver

 

いけない恋とは、どんなモノなんだろう?
チラッと隣の人を覗き、ヨハンは教師の言葉を聞きながらノートにメモする。
ふと彼は思う。自分は恋をしているのは、分かっている。
だがどうして、自分はそれをいけない恋と思ってしまうんだろう
(相手は友達だから?)
――――いいや。友達だけではいけない恋とはない。
(相手は親友だから?)
――――上と同じだ。いけない恋ではない。
(相手は男だから?)
――――確かにそうかもしれない。男同士が恋をしても何が意味がある?

恋には自由というモノがあると言われている。
でも実際、それはただの口言葉で、この世界にはそういう自由なんていない。
同姓を好きになってはいけない。
子供に手を出してはいけない。
婚約者や恋人、パートナーがある人と恋をしてはいけない。

本当は、この世界に自由なんていない。
自由の恋なんて、どこにもいない。
ならば、何故そこに自由があるって言われる
想いだけが、自由ってことか?


恋だと分かって、彼は触りたかった。
相手を触りたい。顔を触りたい。
耳や瞳、髪、口唇、指先、腕、―――彼のすべてを触りたい。
だが何故自分は手を伸ばすさえできない。
何に迷っている。
何に疑っているんだ俺は!

「あ」
十代の返事に我に返るヨハン。
どうやらシャーペンが落したらしく、仕方ないとヨハンはそれを取り上げると、十代の手と重なる。
丁度同じタイミングで二人がシャーペンを取る時だった。
「あっ!サンキューヨハン!オレは自分でとれ、」
「っ…!!」
放れた。
いきなり自分の腕を引っ張るヨハンに十代は疑問を抱く。まるで嫌なモノを触ったような、怖がる青い瞳。
「っあ、ゴメン……ちょっと、静電がぴぴっちまって」
「あ、そ…っか。びっくりしたぜーサンキュ」
改めて笑顔を咲く十代。彼はシャーペンを取り、再び暇そうに教師の言葉を聞きながらシャーペンを遊ぶ。
ヨハンは彼を見て、先程触った手を握りこむ。
(何がいけないのか)
(何故、いけないのか)

(どうして恋人などいない彼にそれをしてはいけないのか)
――――あぁ。なるほど

だってこいつ、俺の事を好きじゃないんだ

 

いけないとは、人間の気持ちが決めたこと
片思いこそ、いけない恋

 

叶えられない 禁断の恋だ

 

サラサラと十代は頭が撫でられる。
振り返ると、ヨハンが彼の頭を撫でいた。
「どうしたんだ?」
「…いいや、別に。」
「?変なヨハン」

明るい笑顔でヨハンは口元を上げ、
少し辛そうに、彼に微笑んだ。


いけない(禁断の)恋
人間の気持ちこそ禁断のモノかもしれない

 

 


それは分割された一つの恋。








十代ver

 

いけないこと。いけない言葉。
チラッとヨハンの視線を気付かない振りをし、十代はできるだけ視線を前に集中する。
ふと彼は思う。彼は少し、変な恋をしているだろうか。
でも彼は、これはいけないモノだと、頭のどこかが教えている。
(相手は男だから?)
――――いいや。彼自身はこんな考えはない
(相手は友達だから?)
――――いいや。近いかもしれないけど、そこまでいけないモノではないと思う
(相手は、彼だから?)
――――そう、かもしれない。

彼だからこそ、彼は恋に落ちたと思う。
相手は『彼』でなければ、彼はこんな感情を持つ訳がないし、そこまで相手の行動を気にする筈がない。


誰から聞いたんだ。
恋には自由があるって。
自由なのに、何故自分はそれが自由じゃないって感じるんだろう
周りの視線があるからか?この世界のルールではだめってことか?
思うことだけが、自由なのか?

考え込むと指から落すシャーペン。「あ」と我に返り、十代はそれを取り上げようと一つの手を重なる。
…ヨハンの手だ。

思わず、一瞬だけ動揺してしまった。
「あっ!サンキューヨハン!オレは自分でとれ、」
「っ…!!」
すぐに誤魔化そうとするが、先に相手の行動にチャンスを取られてしまった。
…拒んでいる。

ヨハンは彼自身の手を引っ張った。まるで十代の動揺を気付いたように、触りたくもないその瞳。
……あぁ。まさに最悪の状況だ。
「っあ、ゴメン……ちょっと、静電がぴぴっちまって」
「あ、そ…っか。びっくりしたぜーサンキュ」
本当かどうかわからないけど、とりあえず十代は笑顔で返事する。シャーペンを取り、ヨハンを見ない様に十代はシャーペンを遊びながら教師の方向を見る。
もう一つの手は、震えているけど。
(あぁ。いけないって、こういうことか)


――――拒絶されてしまうことは一番怖い。
彼が相手が好きだとしても、相手は自分が好きなわけじゃない。
一緒に居られるわけじゃないから、それを

いけない(禁断の)恋と呼ぶのか


本当は、もう少し触らせたかった。
彼と手を繋ぎたい。彼と普通に、よく見る恋人同士で居たい
なんで

なんでオレは  こんな恋をしちゃうんだろう


ふといきなり撫でられた。
突然の感覚で視線を隣に向くと、ヨハンは彼の頭を撫でいた。
「どうしたんだ?」
「…いいや、別に。」
「?変なヨハン」

―――変なのは、オレだ

ゴメンな。ヨハン。


明るい笑顔を咲き、十代は見ないことにした。
ヨハンの、複雑で辛そうな顔を。


ゴメン。


いけない(禁断の)恋
いけないだって知っているのに、何故オレはこんな気持ちを手に入れたんだろう

 

それは分割された一つの恋。







After

 

「なぁ十代」
「ん?なんだ」
「一つ、相談したいことがあるけどさ、いいか」
「?別にいいぜ?」
「もし、俺には好きな人がいてさ。そいつは女じゃなくて、俺と同じ男だけど、俺はどうすりゃいいと思う」
ヒクと少年の腕は跳ねる。
ヨハンは続いた。
「俺だって、これはおかしいって分かっているぜ?でもさ、分かっていても、アイツに好きになっちまったんだ。どうしようもなく、アイツが好きなんだ」
「―――…じゃあヨハンはどうしたいんだ?」
「え?」
「ヨハンは、相談相手をまちがったんじゃねぇ?オレって恋をしたこともないし、オレに聞いてもわかんねぇよ」
「なんとなく、十代ならきっと俺の気持ちを分かってくれると思うから。だって俺達、似た者だし」
「…オレを、からかってんのか」
「は?」
「っ別のヤツと相談してくれ、オレは帰る!」
「!十代!」
立ち上がる瞬間に腕は掴められた。自分を掴むヨハンを見て、十代は視線を逸らした。
「…わざと、オレのこと言ってんのか」
「十代?」
「オレの気持ちが気付いているからわざと嘘をついてオレをからかうんだろう?!」
「っなに言ってんだよ!これは嘘じゃな」
「嘘に決まっている!!!!」
大きな声で相手の言葉を覆り、十代は辛そうにヨハンを見た。
「例えお前は本当のことを言っていても、オレには辛いんだ!オレは聞きたくもない、…聞かせないでくれよ!」
「十代、とりあえず落ち着けって」
「離せ!はなしてくれ!オレはききたくない!!お前だけの幸せなんてみたくな、」

「じゅうだい!」
顎を自分に向かせて口付けた。
思わず鳶色の瞳は大きく揺れ、青い髪や瞳は目の前にいて、十代は混乱する。
何が、あったん、…
「十代。頼む、落ち着いて聞いてくれ」
「……よ、はん」
「聞いてくれ」
真っ直ぐと十代を見つめ、ヨハンは両手で彼の頬を触る。
「…嘘じゃない。男を好きになったことは本当なんだ」
「………」
「でも、相手はお前だよ」
「…嘘だ」
「本当だ」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「うそだ。…オレをからかうに決まっている…」
「なんで俺は十代をからかう?…俺には、これをやる理由がないだろう?」
「ヨハンは、―――ヨハンはオレの気持ちを気付いたから、こんなウソをするんだ」
「十代の気持ち?」
「……ヨハンは、オレを拒んだくせに」
「…拒んでいない」
「オレの動揺を気付いたのに」
「こんなことはない。今知ったところだぞ」
「オレはヨハンのことが好きって」
青眸は見開いた。
「―――…それは、知っていたんだろ?」
「――――……ぇ、な、……えぇ…?……ご、ごめん。知らなか、った」
「……マジ…?」
「…今の俺の顔を見てもわかんねぇのかよ」
顔が段々赤くなっていくヨハン。手のひらまで温かくて、自分の顔も熱くなって気がした。
「…知らなかった、のか」
「……っというより思わなかった。ごめん。」
「…オレは、ヨハンが好きだぞ?」
「うん。俺も十代が好きだぜ?ただ、お前は拒むと思ったから、伝う勇気がなかった」
「…オレも」
「……顔、赤くなっている?」
「よ、ヨハンだって同じくせに」
「それもそうか。…これはさ、いけない恋、なのかな?」
「………わからない」
「怖い?」
「ひとりなら、怖い」
ヨハンの手を触り、十代は小さく微笑む。
「でも、ヨハンと一緒なら…怖くないと思う」
「…あぁ」
ヨハンも応えるように小さく笑った。
「目を、閉じて」
「…無理」
「開いている方が恥ずかしいぞ?」
「っ、でも勿体ない気がするぜ……」
「お、かわいい」
サラサラと髪を撫でると指先を瞳に触る。静かに眸の形を触り、そして目を、ゆっくりと閉じさせる。
二人はキスした。

 

それは分割された一つの恋。
二人なら、もう 怖がることがない









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