家族だけで手入れをするには大きすぎる家で、尚且つそれなりに地位のある家柄だったから、ヨハンの家には当然のようにメイドがいた。 「なぁ、十代。明日買い物に付き合ってくれよ。友達の誕生日プレゼントを一緒に見て欲しいんだ。」 「あ…ごめん。明日はダメなんだ。」 「仕事なら空けて貰えるように俺から頼んでおくよ。」 「そうじゃないんだ。本当にごめん。」 十代は、ヨハンから目をそらして行ってしまった。
「ん…おはよう。十代。」 1週間後。 「あのさ。十代。」 「あのな。ヨハン。」 十代は、ヨハンが尋ねるのに被せるように口を開いた。 「ありがとう。」 「いいって。で、どうしたんだ?」 「えっと。突然なんだけど、明日で辞める事になったんだ。」 「何を?」 「ここで働かせてもらうの。結婚…するからさ。」 「この頃居なかったのはそのせい?」 「…うん。」 ショックで頭が働かない。 「ほらほら。早く支度しないと遅刻しちゃうぞ。」 言われるがままに支度をして、朝食を食べて玄関に向かう。 「いってらっしゃいませ。」 「いって…きます。」 いつものように十代の頬に口付ければ、十代ははにかむ。
「おはよう。十代。」 「おはよう。ヨハン。今日もいい天気だぞ。」 カーテンを開ける十代を見ながら、ヨハンはベッドの上で頭を抱える。 「ヨハン?頭痛いのか?」 「あ、いや、そうじゃないよ。」 眉間に皺を寄せて頭を抱えていたら、確かにそう思うだろう。不安そうな顔をする十代の頭を撫でてやり、ヨハンは着替える事にした。 「いってらっしゃいませ。…おかえりなさいって言えないけど、気をつけて帰って来るんだぞ?」 「どういうことだ?」 「今日の昼には迎えが来る事になってるんだ。だから、ヨハンとはもうこれでお別れ。元気でな。」 「そんなっ!」 「ほら。いつもどおりに「いってきます」って言ってくれよ。あれを聞くと、今日が始まるんだな〜って思えるんだ。」 十代は穏やかに笑っていた。だが、何かを堪えるように握り締められている手が、十代の本心に思えた。 「……かよ。」 「ヨハン。」 「言えるわけないだろ!俺に、十代がいない家に帰って来いって言うのかよ!」 ヨハンは声を荒げると、突然の怒声に怯える十代の手を引いて自室へと戻った。 「十代は誰にも渡さない。誰かに盗られる前に、俺のものにする。十代…俺を…受け入れて。」 ヨハンは十代の答えを聞かず、ゆっくりとその身体を開いていった。
「痛い?」 「ううん。」 「怖い?」 「…ううん。」 「そっか。でも、これはちょっと痛いかも知れない。」 ヨハンは今、十代の胎内に侵入しようとしている。それが十代の身体にどれほどの苦痛を与えるかは、想像する事しかできない。 「ひぅっ。」 十代が小さく悲鳴を上げる。 「きて…。」 「大丈夫か?」 「うん。」 十代の言葉を得て、ヨハンは奥へと進む。 「十代。愛してるよ。」 「よは…ぁん。よは…。」 「十代…十代…。」 名を呼んでくる唇を、ヨハンは塞いだ。そうでもしないと、今にも達してしまいそうだから。 「ん…ぅ……っ。」 これはこれで…クる。 「ヨハン…っ。」 「十代?」 十代の声に何かを訴える色が混じっていたので、ヨハンは十代の様子を伺う。 「す…き……。」 十代は壊れた人形のように、ずっと「好き」を繰り返した。 「俺も…十代が好きだよ。」 互いの名を呼び、愛を囁きあいながら絶頂へと向かう。
「やっべぇ。」 「ん…ヨハン。あれ?14…時?………!!!!!」 十代も飛び起きた。 「ヨハン……。」 「大丈夫だよ。」 大丈夫…とは言ったものの、ここはもう、当たって砕けるしかない。 「失礼します。」 「入りなさい。」 父親の返答を受け、ヨハンは十代を伴って部屋へと入った。 「はじめまして。ヨハンと申します。」 十代の両親と思われる人たちに丁寧に頭を下げれば、慌てたように止められる。 「そ、そんなご丁寧に。」 「いえ。娘さんを傷物にしましたから。」 「え?」 「十代を抱きました。ついさっき。俺の部屋で。」 ぽかんとヨハンを見てくる十代の両親と、やるわね…などと呟くヨハンの母親、そして俺にそっくりだ…と嬉しそうな父親。 「十代が好きなんです。お願いします。俺に十代をください。」 「ヨ、ヨハン。」 ヨハンの行動に戸惑った十代が手を引いてくる。顔を上げて伺えば、皆の顔を見ては顔を赤くしたり青くしたりで、忙しそうだった。 「十代。あなた…ヨハンさんの事が…。」 「そ…れは。」 十代の母親の言葉に、十代は言葉を無くす。何かを言おうと開かれた唇から言葉が出てくる事はなかった。 「何だよ十代。さっきはあんなに好きだって言ってくれたじゃないか。」 「な、なに言ってっ。」 「さっきのは睦言だから…なんて言うなよ。俺の事ちゃんと受け止めてくれたじゃないか。俺たち両思いだろ?」 抱き寄せて腕に閉じ込めれば、十代は条件反射のように大人しくなった。 「そういうのは、人目のないところでしなさい。あと、大人同士の話があるから、お前たちは昼食でも食べてきなさい。」 「は〜い。さ、行こう十代。」 「でも…っ。」 十代の言葉は、両親たちの優しい視線により、止められた。 「なに食べようか。」 「ヨハンの食べたいものは?」 「十代。……は、また今度にするとして、パスタがいいな。作ってくれる?」 「もちろん!」 十代の笑顔を見ながら、ゴム買わないとな…と、ヨハンは思った。
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