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● いってきます、は言えない

(メイド十代:R-18)
written by 緑豆



家族だけで手入れをするには大きすぎる家で、尚且つそれなりに地位のある家柄だったから、ヨハンの家には当然のようにメイドがいた。
身分とかそういうのには拘らない両親だったから、ヨハンとメイドたちは仲がいい。でも、その中でもとっておき仲の良いメイドがいた。
名前は十代。
ヨハンと同い年だが、家庭の事情とやらで高校に行くことなく働いている。
最初の頃はお仕着せのメイド服に慣れておらず、スカートがかなり危うい事になっていたが、今では立派なメイドだ。
女としても成長した十代を、ヨハンの母も好意的に見ている。ヨハンにはそれが誇らしかった。

「なぁ、十代。明日買い物に付き合ってくれよ。友達の誕生日プレゼントを一緒に見て欲しいんだ。」

「あ…ごめん。明日はダメなんだ。」

「仕事なら空けて貰えるように俺から頼んでおくよ。」

「そうじゃないんだ。本当にごめん。」

十代は、ヨハンから目をそらして行ってしまった。
こんな事は初めてだ。
どんな些細な事でも、十代はいつだって言ってくれたし、ヨハンも十代に包み隠さず言っていた。
何でも言い合える仲であるとの自負があるから、ヨハンは不思議で仕方がない。
母親に尋ねてみたりもしたが、言葉を濁して教えてくれなかった。それは、十代自身に聞けという事なのだろう。
だが、その日から1週間、十代がヨハンの前に姿を現すことはなかった。

 


「おはよう。ヨハン。」

「ん…おはよう。十代。」

1週間後。
十代は、当たり前のようにヨハンを起こしに来た。

「あのさ。十代。」

「あのな。ヨハン。」

十代は、ヨハンが尋ねるのに被せるように口を開いた。
一応、立場を有る程度は気にしている十代にしては珍しく、ヨハンは十代に先を譲る。

「ありがとう。」

「いいって。で、どうしたんだ?」

「えっと。突然なんだけど、明日で辞める事になったんだ。」

「何を?」

「ここで働かせてもらうの。結婚…するからさ。」

「この頃居なかったのはそのせい?」

「…うん。」

ショックで頭が働かない。
結婚…十代が結婚。
呆然としているヨハンに、十代は明るく声をかけてきた。

「ほらほら。早く支度しないと遅刻しちゃうぞ。」

言われるがままに支度をして、朝食を食べて玄関に向かう。

「いってらっしゃいませ。」

「いって…きます。」

いつものように十代の頬に口付ければ、十代ははにかむ。
自分に口付けられて、喜んでるやつが自分以外の男と結婚?ありえない。十代を幸せに出来るのは、自分だけだ。
いつもどおりなようで、少し寂しげな笑みを浮かべる十代を見ながら、ヨハンは学校をサボる事を決めた。

 


次の朝。
十代はいつもどおりヨハンを起こしに来た。

「おはよう。十代。」

「おはよう。ヨハン。今日もいい天気だぞ。」

カーテンを開ける十代を見ながら、ヨハンはベッドの上で頭を抱える。
結局、何も手が打てないままだった。
色々調べて、十代が好色なじじいの所に嫁ぐことと、それがそのじじいの策略で十代の両親が嵌められたせいだということは分かった。
十代が嫁がなければ小さな商店を営む十代の実家は潰されてしまう。
心優しい十代はそれを望まなかったのだろう。ヨハンの両親が援助を申し出たが、十代は自分が嫁げばいいことだからと断ったとか。
成長してすっかり女らしい体つきになった十代を見て、ヨハンは思う。
誰にも渡したくない。
積極的にアプローチをしてこなかった事が、今になって悔やまれた。周囲の人間にはバレバレだが、鈍感な十代はヨハンの思いに気づいていない。
気づいていたなら、両親の執拗な申し出を断らなかっただろう。
両親からすれば、十代は将来の嫁だ。援助することに躊躇いはない。十代との仲の進展を聞かれるくらいだから、間違いない。

「ヨハン?頭痛いのか?」

「あ、いや、そうじゃないよ。」

眉間に皺を寄せて頭を抱えていたら、確かにそう思うだろう。不安そうな顔をする十代の頭を撫でてやり、ヨハンは着替える事にした。
十代が辞めるのは今日だからまだ時間はある。今日中に何とかしよう。
だが、その思いは、ヨハンを見送りに来た十代の言葉で砕かれた。

「いってらっしゃいませ。…おかえりなさいって言えないけど、気をつけて帰って来るんだぞ?」

「どういうことだ?」

「今日の昼には迎えが来る事になってるんだ。だから、ヨハンとはもうこれでお別れ。元気でな。」

「そんなっ!」

「ほら。いつもどおりに「いってきます」って言ってくれよ。あれを聞くと、今日が始まるんだな〜って思えるんだ。」

十代は穏やかに笑っていた。だが、何かを堪えるように握り締められている手が、十代の本心に思えた。

「……かよ。」

「ヨハン。」

「言えるわけないだろ!俺に、十代がいない家に帰って来いって言うのかよ!」

ヨハンは声を荒げると、突然の怒声に怯える十代の手を引いて自室へと戻った。
十代に聞かせるように鍵を閉めたときも、すでに綺麗に整えられているベッドに押し倒したときも、十代は何も言わなかった。

「十代は誰にも渡さない。誰かに盗られる前に、俺のものにする。十代…俺を…受け入れて。」

ヨハンは十代の答えを聞かず、ゆっくりとその身体を開いていった。

 


十代の手は、常にヨハンに添えられていた。
唇に吸い付いた時も、服を脱がすときも、小ぶりな乳房に吸い付いたときも、秘裂に指を差し込んだときも。
時折堪えるように爪が立てられるが、それでも十代の手はヨハンを突き放そうとはしなかった。

「痛い?」

「ううん。」

「怖い?」

「…ううん。」

「そっか。でも、これはちょっと痛いかも知れない。」

ヨハンは今、十代の胎内に侵入しようとしている。それが十代の身体にどれほどの苦痛を与えるかは、想像する事しかできない。
指を入れただけでキツいそこは、ヨハンに快楽を与えるだろう。
十代も同じように、痛みではなく快楽を得られればいいのにと思う。
生憎と、ヨハンもはじめてだから、やってみるほかなかった。

「ひぅっ。」

十代が小さく悲鳴を上げる。
息を詰めた十代を宥めながら、ヨハンはゆっくりと侵入していった。かなりキツい。一回抜こうかどうか迷ったヨハンを止めたのは、十代だった。

「きて…。」

「大丈夫か?」

「うん。」

十代の言葉を得て、ヨハンは奥へと進む。
あまりにも気持ちよくて射精しそうになるが、ヨハンは堪えた。

自分だけ気持ちよくなるわけにはいかない。
十代の身体に口付けを落とし、快楽を引きずり出そうと試みる。

「十代。愛してるよ。」

「よは…ぁん。よは…。」

「十代…十代…。」

名を呼んでくる唇を、ヨハンは塞いだ。そうでもしないと、今にも達してしまいそうだから。

「ん…ぅ……っ。」

これはこれで…クる。
互いに抱きしめ合い、舌を絡めながら、絡み合った。結合部からは互いの快楽の証が零れ、動きを助けている。

「ヨハン…っ。」

「十代?」

十代の声に何かを訴える色が混じっていたので、ヨハンは十代の様子を伺う。

「す…き……。」

十代は壊れた人形のように、ずっと「好き」を繰り返した。

「俺も…十代が好きだよ。」

互いの名を呼び、愛を囁きあいながら絶頂へと向かう。
駆け抜けたそこは、とても気持ちがよかった。

 


慣れない行為に疲れ果て、ヨハンも十代も眠ってしまった。
慌てて起きれば、時計は14時を指し示している。

「やっべぇ。」

「ん…ヨハン。あれ?14…時?………!!!!!」

十代も飛び起きた。
慌てすぎてベッドから落ちそうになる十代を支えてやれば、十代はヨハンの腕の中で深呼吸をする。
それからゆっくりと起き上がると、手早く衣服を身に着けていった。
それを見て、ヨハンも服を着始める。先に着替えを追えた十代に手伝ってもらい身支度を整えると、ヨハンは十代の手を引いて部屋から出た。
途中ですれ違ったメイドから、ヨハンの両親と十代の両親が応接室にいると聞かされる。

「ヨハン……。」

「大丈夫だよ。」

大丈夫…とは言ったものの、ここはもう、当たって砕けるしかない。
両親がうまく援護をしてくれる事を祈るだけだ。十代の両親からの心象は悪くなるかもしれないが、そこは気にしていられない。

「失礼します。」

「入りなさい。」

父親の返答を受け、ヨハンは十代を伴って部屋へと入った。

「はじめまして。ヨハンと申します。」

十代の両親と思われる人たちに丁寧に頭を下げれば、慌てたように止められる。

「そ、そんなご丁寧に。」

「いえ。娘さんを傷物にしましたから。」

「え?」

「十代を抱きました。ついさっき。俺の部屋で。」

ぽかんとヨハンを見てくる十代の両親と、やるわね…などと呟くヨハンの母親、そして俺にそっくりだ…と嬉しそうな父親。
繋いだままの手が熱くなっているから、十代は真っ赤になっているのだろう。
かすかに震える手をぎゅっと握ってから、ヨハンは再度頭を下げた。

「十代が好きなんです。お願いします。俺に十代をください。」

「ヨ、ヨハン。」

ヨハンの行動に戸惑った十代が手を引いてくる。顔を上げて伺えば、皆の顔を見ては顔を赤くしたり青くしたりで、忙しそうだった。

「十代。あなた…ヨハンさんの事が…。」

「そ…れは。」

十代の母親の言葉に、十代は言葉を無くす。何かを言おうと開かれた唇から言葉が出てくる事はなかった。

「何だよ十代。さっきはあんなに好きだって言ってくれたじゃないか。」

「な、なに言ってっ。」

「さっきのは睦言だから…なんて言うなよ。俺の事ちゃんと受け止めてくれたじゃないか。俺たち両思いだろ?」

抱き寄せて腕に閉じ込めれば、十代は条件反射のように大人しくなった。
悪戯心で耳に触れれば、悩ましい声が上がる。それが可愛くて、十代の両親がいるというのに、ヨハンは十代に口付けた。
だが、舌を差し入れようとしたところで、ヨハンの父親からストップが掛かる。

「そういうのは、人目のないところでしなさい。あと、大人同士の話があるから、お前たちは昼食でも食べてきなさい。」

「は〜い。さ、行こう十代。」

「でも…っ。」

十代の言葉は、両親たちの優しい視線により、止められた。
十代は深々と一礼すると、扉のところで待っていたヨハンのところに駆け寄ってくる。

「なに食べようか。」

「ヨハンの食べたいものは?」

「十代。……は、また今度にするとして、パスタがいいな。作ってくれる?」

「もちろん!」

十代の笑顔を見ながら、ゴム買わないとな…と、ヨハンは思った。

 

 

END









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